添削事業の横展開、学習塾への進出

 難関大学に挑む受験生が頼りにする「Z会」は高校生向けの通信教育で知られてきたが、今では幼児・小中学生向けや学習塾事業も手がけている。通信添削の対象年齢層を広げる横展開と、リアルの学習塾に進出する取り組みを同時並行で進め、「Z会」ブランドを磨き上げてきた。

 とりわけ、動きが目立つのは、学習塾の展開だ。2015年に栄光ゼミナールを買収。さらに、難関私大文系専門の予備校「増田塾」も買収した。18年には駿台予備学校を運営する学校法人駿河台学園との間で業務提携を結び、駿台の講義とZ会の添削指導を組み合わせた「スーパー東大実戦講座」をスタートさせている。藤井氏が増進会HDの社長に就いたのが13年で、相次ぐ買収はその後の取り組みだ。Z会グループは既に25社を超え、社員も3000人に達した。

Z会は学習塾事業にも力を入れている

 通信添削で培ったノウハウを、学習塾のカリキュラムや指導法にもフィードバックしている。グループ会社のZ会エデュースが運営する「Z会進学教室」はoricon MEが発表した「2019年オリコン顧客満足度ランキング」の「高校受験 集団塾 首都圏 東京都」部門でトップに選ばれた。「複数の教育サービスを展開することは、それぞれの事業から得られた知見を共有して、全体のレベルアップにつながる利点が大きい」という。こうした多軸展開を支える背骨も、やはり90年の歴史を持つ「Z会ブランド」だろう。

 藤井氏の背中を押すのは少子化の影だ。幅広い属性をカバーする通信教育に加え、異なる業態の学習塾を迎えて、総合教育グループに育て上げたのも、「長いトレンドとして覚悟している」とみる少子化をにらんでのことだ。

 しかし、数々の「縦横展開」の効果もあって、「成長ペースは鈍っていない」(藤井氏)。むしろ、社会人向け通信添削や、塾と組み合わせたハイブリッドサービスなど、業態開発のアイデアは広がり続けていて、「成長余地は小さくない」とみる。年齢層・サービス種類は幼児向けからリカレント教育にまで広がり、大人向けにはTOEIC対策や公務員試験用も用意されている

 新型コロナウイルス禍のあおりで、学校教育にもオンライン化の波が押し寄せている。既にZ会ではタブレットを用いた通信添削が主力サービスに育っていて、「オンライン教育との親和性は極めて高い」(藤井氏)。

 手書きの通信添削で90年にわたって蓄積してきた指導のノウハウは「デバイスや通信手段が変わっても、価値を失わない」(藤井氏)。155人の指導部、大勢の作問・添削者という人的資産は、サービスや事業の枠組みが広がるほどに、「活用の選択肢も広がっていく」と、事業のさらなる立体化を見据える。

 Z会が有する「宝物」の一つは、累計300万人と見積もられている、歴代の会員ネットワークだ。「90年の歴史は、既に3世代の利用者を生んでいる。受け継がれたZ会のDNAは自学・自習の共通体験を持つ、分厚い地層を、日本の知的な人たちの間に確保している」。実際、かつての会員だった保護者が子供にZ会を勧めるケースは珍しくないという。

 学ぶ側にとって添削指導が魅力的に感じられる理由の一つは、「誰かが自分を気に掛けてくれる」「添削者本人の言葉で、私の答えに向き合ってもらえる」という、人肌の感覚にあるだろう。コロナ禍でじかに他人と接する機会が失われる中、古くて新しい「通信添削」という仕組みは「つながる学び」の形として新たな輝きを帯びてみえる。

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