添削のルールと励ましの言葉

いったん正式な添削者として認められても、その立場がずっと保障されるとは限らない。「常にそれぞれの添削者の添削内容を本部側でチェックしている。優れた添削を続けていれば、評価が上がる。もちろん、その逆も起こり得る」と、藤井氏は朱筆のクオリティーに目を光らせる。「添削者の主な仕事は間違いの訂正ではなく、会員を教え導くことだと常に説いている」と、「Z会メソッド」の浸透にも心を砕く。

添削者に求められている心得やルールは少なくない。たとえば、誤答への添削文言の「使い回し」は禁じ手だ。模範的な添削文章は用意されているが、添削者が個々に工夫を施す余地を検討するのが望ましいとされる。

同じ設問への答えでは、多くの会員が同じような間違いを犯しがち。間違え方が似ていれば、朱筆の文言も似通ってきそうなものだが、「見た目には同じような間違いでも、正解にたどり着けなかった理由は会員それぞれに異なる。思考の流れをたどって、修正ポイントを見つけ出すのが望ましい添削だ」(藤井氏)という。

添削者には一定の範囲内での自由裁量が認められている。「最終的な目的は『本物の学力』を伸ばすことに尽きる。答案から読み取れた、会員それぞれの弱点や伸ばしどころについては、添削者が個別に励ましや応援の言葉を書き添えて構わない。実際に答案と接している添削者にしか発することのできないメッセージがあり得るから、自由裁量を認めている」という。こうした個人的なエールを送ってもらえるのは、機械的正誤判定では不可能な、人力添削ならではのメリットだろう。

増進会ホールディングスの藤井孝昭社長は「添削ノウハウはZ会の宝」という

言葉を通したやりとりが可能なのは、答案に「添削者より」の欄があるからだ。「焦らず地道に努力していきましょう」「あと一歩の努力で大丈夫です」といった励ましの言葉もここに書き込まれることが多い。会員のほうも「答案感想欄」に「英語は全般的に苦手」「全く解法が思いつきませんでした」などと、素直な思いを書き込める。難問の壁にぶつかって、くじけそうになる会員たちを励ますのも「添削者の大事な役目。創業以来、大事にしてきたルーツだ」と、藤井氏は力を込める。

難関大学向け以外のコースでは、学力や習熟度に応じた教材を用意してもらえる。会員が通う学校ごとに、教科書やカリキュラムが異なるので、教材の設定には丁寧な配慮が求められる。現在ではZ会側であらかじめ学校ごとの教科書やカリキュラムを把握しているので、会員が自分の通う学校を登録すれば、その人に合った教材が各教科の授業ペースに合わせて用意される。この個人向け教材製本システムを導入したおかげで、「学力や習熟度に目配りしながら、本人の伸びを引き出す指導に取り組みやすくなった」(藤井氏)という。

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添削事業の横展開、学習塾への進出