日経ナショナル ジオグラフィック社

「3つの研究結果が驚くほど似ていることは、本当に興味深いと思いました」と、米タフツ大学カミングス獣医学部の臨床助教エミリー・マッコブ氏は話す。「少なくとも聞いたかぎりでは、私たちが米国で耳にしていることとよく似ています」。なお、マッコブ氏はいずれの研究にも参加していない。

「人々はペットを飼い始めていて、ペットは孤独とつきあう上で役立つと気付き始めています」。マッコブ氏の診療の現場では、「もともと行動上の問題を抱えていた動物の場合、その問題が悪化しているように見えます」

すべてのペットについて英国で調査、新たな心配も

英ヨーク大学の上級講師エレナ・ラッチェン氏は20年4月~6月、英国の5926人に自身のメンタルヘルス、幸福度、孤独感、ペットとの絆や交流について質問した。

20年9月25日付で学術誌「PLOS ONE」に発表されたこの調査では、魚類、鳥類、イヌ、ネコ、小型哺乳類など、あらゆるペットが対象となった。イヌを飼っている人の91%、ネコを飼っている人の89%、ウマや家畜を飼っている人の95%を含むほとんどの回答者が、ペットは「大切な気持ちの支えになっている」と述べていた。

ロックダウン前からメンタルヘルスの問題を抱えやすかったと自己申告した人々は、パンデミックの到来後、ペットとの絆が強くなったと回答した。

また、ペットを飼っている人は飼ってない人に比べ、全体的に孤独感や孤立感が少ないと報告した。これは「緩衝効果」のおかげかもしれない。ペットが人同士の社会的交流に取って代わることはないが、その隙間を埋める助けにはなるとラッチェン氏は説明する。

ただし、どちらの研究も、ペットと飼い主の間で新たな心配が生じていると指摘している。イヌが十分な運動をしているかどうか、ペットフードを購入できるかどうか、ペットに医療を受けさせることができるかどうか、自分が病気になった場合、誰がペットの世話をするか、ペットがパンデミック後の生活にどう適応するかといったことについてだ。

イヌやネコは「万能薬」ではない

ラッチェン氏によれば、ペットはメンタルヘルスの悪化や募る孤独感から私たちを守ってくれると広く信じられているが、同氏の研究結果はこの通説を支持するものではないという。飼い主にはペットが心の支えになっているという意見が確かに多いものの、ペットを飼っている人とそうでない人を比べた場合、メンタルヘルスや孤独感の変化についての差はごくわずかだったのだ。

「ペットの利点に関する証拠は、パンデミック前の研究かパンデミック中の研究かにかかわらず、さまざまなものが入り交じっています」とラッチェン氏は話す。「なぜなら人々はペットにまつわる心配事や不安をいくつも抱えているためです」

つまり、イヌやネコを飼うことは、多くの人が信じているように、パンデミックをより健康的に乗り切る助けになるとは限らないということだ。

米タフツ大学カミングス獣医学部の助教として、人と動物の交流を研究するミーガン・K・ミューラー氏も同じ意見だ。

「私が目にするメディアのなかには、『パンデミックで寂しい? ペットを飼うといいよ!』といった感じのものがあります。しかし、実際はもっと複雑で、科学がそれを証明し始めています」

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ペットの行動は本当に悪化している?
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