コース終わりに出ない イタリア料理、チーズの深い話イタリア美味の裏側(1)

イタリアチーズの代表格、パルミジャーノ・レッジャーノ。なぜイタリアンのコースでチーズを勧められることがない?=PIXTA
イタリアチーズの代表格、パルミジャーノ・レッジャーノ。なぜイタリアンのコースでチーズを勧められることがない?=PIXTA

1970年代末にイタリア語を学んだ大学で、イタリア人女性教授から直伝を受けたアーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノのスパゲティ。それが本物イタリア料理との出合いだった。イタリアのことを書いて訳して、30年以上になる。イタリアの食材が簡単に手に入るようになった日本で、いまや“おうちイタリアン”が花盛りだ。イタリア料理は、イタリアの歴史や人びとの知恵が詰まっているからこそおいしい。これから、そんなイタリアの食の裏側を解き明かし、毎回お届けする。

第1回は、イタリアチーズの裏側。

フランス料理店で、チーズはコースの終わり(デザートの前)に勧められる。では、イタリア料理店で同じような経験をしたことがあるだろうか? 実は、イタリアの一部の地方やリストランテでしか、チーズが食事の終わりに出されることはない。それはイタリア料理のある特徴から来ている。

イタリア料理とは、イタリア各地の地方料理、郷土料理をまとめてそう呼んだもの。イタリアチーズも同じである。イタリアの各地方、地域でつくられるチーズをまとめてイタリアチーズと呼んでいる。その数、およそ500種類。世界のチーズ約2000種類のうち、実に4分の1がイタリア各地でつくられている。地方ごとのバリエーション豊かなチーズは、テーブルチーズとして楽しむこともあるが、その地方の料理、郷土料理に使うのがイタリアの基本なのだ。

ローマの市場に並ぶペコリーノ・ロマーノは、古代ローマ時代からの保存食

例えば、カルボナーラ風スパゲティにはどのようなチーズを使うだろうか。手に入りやすいパルミジャーノ・レッジャーノ? カルボナーラはローマ発祥の料理で、ローマには古代ローマ時代から羊乳のチーズがあった。だから、本来は、ペコリーノ・ロマーノという羊乳製チーズを使う。ペコリーノ・ロマーノはまさに「ローマの羊乳のチーズ」という意味である。皮肉にも、ローマ近郊は都市化が進み、いまや9割以上がサルデーニャ島でつくられているにしても。

チーズをたっぷり使うラザーニャはどうだろう。ミートソースとホワイトソースを使ったラザーニャは、イタリア中部のボローニャ近郊の料理なので、その一帯を産地とする牛乳製のパルミジャーノ・レッジャーノが使われる。「パルマの」と「レッジョ(・エミリア)の」という2つの産地名が合わさって20世紀前半にチーズ名となり、今は、この両県以外にも産地は広がっている。