北東イタリアの山岳地方のチーズ料理、フリーコ(料理・写真提供:山内千夏)

フリーコは、モンタジオというチーズを溶かし、ゆでたジャガイモと混ぜて丸型にし、フライパンで焼く料理だ。北東イタリアの山岳地方で食べられる。東京・青山の「リストランテ・アクアパッツァ」の日高良実オーナーシェフが、「チーズとじゃがいものカリカリ焼き」として、簡単なつくり方をユーチューブで公開したことで広く知られるようになった。

このモンタジオという牛乳製チーズを溶かすときに、40日以上熟成、4カ月以上熟成、10カ月以上熟成、18カ月以上熟成のもののうち、2~3種類を使う。そうすることで、シンプルきわまりない料理の味に深みが出るのである。地元の白ワインに合うひと皿は、熟成度の違うチーズを混ぜてこそでき上がる。

「フィオール・ディ・マーゾ」の地下に並ぶ熟成期間の違うモンタジオ

さて、こうしたイタリアのDOP(保護原産地呼称)チーズを熟成度にまでこだわって買いたいと思ったとき、日本で手に入るのだろうか。そうした希望にこたえてくれるのが、東京・麻布十番にあるイタリアチーズメーカーの輸入直営店「フィオール・ディ・マーゾ」だ。「店にチーズの熟成庫をつくりたい」とメーカーの日本支社、カ・フォルム・ジャパンの代表取締役らが望み、熟成期間の異なるチーズを丸ごと地下に並べている。

同店のチーズ管理責任者でCPA(チーズプロフェッショナル協会)認定チーズプロフェッショナルの小林深雪さんによると、「店でいちばん人気なのは、最低50日間熟成の、中身がクリーミーなゴルゴンゾーラ・ドルチェ。生クリームや牛乳に溶かして、野菜や肉、パスタのソースとして使いやすいからです。パルミジャーノもモンタジオも熟成期間の異なるものをそろえ、ペコリーノ・ロマーノはすりおろして料理に使いやすい8カ月以上の熟成になります」

イタリアチーズはさまざまな料理だけでなく、ティラミスにはマスカルポーネ、カンノーリにはリコッタなど、ドルチェ(デザート)に使われることも多い。イタリア料理店がコースの終わりにあらためてチーズを勧める必要がないことが、お分かりいただけるだろう。

自宅でもイタリアチーズ使いに慣れてきたら、熟成度によって使い分けてみてはいかがだろうか。“おうちイタリアン”がもっとおいしくなるにちがいない。

(イタリア食文化文筆・翻訳家 中村浩子)

中村 浩子
イタリア食文化文筆・翻訳家。東京外国語大学イタリア語学科卒。イタリアの新聞社『ラ・レプブリカ』極東支局長助手をへて、文筆・翻訳へ。著書に『イタリア薬膳ごはん』『「イタリア郷土料理」美味紀行』、訳書に『イタリア料理大全 厨房の学とよい食の術』『スローフード・バイブル』

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