カルボナーラには熟成期間8カ月以上のペコリーノ・ロマーノがお勧め(料理・写真提供:山内千夏)

このように、地方料理には、その州やその地方でつくられるチーズを使うのが基本だが、その使い方には、イタリアらしいユルいルールがある。

アサリのスパゲティには、白ワインを使ったビアンコでも、トマト味のロッソでも、チーズはかけない。だが、ムール貝の詰め物のオーブン焼きには、詰め物のパン粉にパルミジャーノを入れる地方もある。イワシのパスタにはチーズはかけない。だが、シチリア名物のベッカフィーコというイワシの詰め物料理には、詰め物にペコリーノを入れても許される。イワシ料理に羊乳のチーズ?! と驚かれるかもしれないが、シチリアでは牛乳製チーズよりも羊乳製チーズのほうが歴史は古く、主流だからだ。

イタリア料理のもう1つの特徴は、イタリアチーズを熟成度によって料理に使い分けることにある。

カルボナーラ風スパゲティに使うペコリーノ・ロマーノは、熟成期間8カ月以上のものをすりおろすのがお勧め。初めてイタリア人に接するとクセの強さにびっくりするものだが、慣れてくると恋しくなるのと同じように、羊乳のチーズも独特の風味にいったん慣れたら、よりコクのあるチーズが欲しくなる。それには熟成の長いほうがふさわしい。なお、古代ローマ時代から保存食でもあったペコリーノ・ロマーノは塩味が強めなので、味付けの塩は控えめにする。

春が待ちどおしいソラマメとペコリーノの組み合わせ(料理・写真提供:山内千夏)

ソラマメとペコリーノという春ならではの前菜には、熟成期間短めのペコリーノを使う。イタリアのソラマメは生で食べられる品種なので、その新鮮さと合わせるには、ペコリーノ・ロマーノなら熟成期間5カ月くらいがよい。熟成期間が短いと塩味が立ち、ソラマメの甘さと相性がよいからだ。この料理はイタリア各地で食べられるので、その地方によって異なるペコリーノを使う。

一般的なラザーニャにはパルミジャーノ・レッジャーノをすりおろして使うが、これには24カ月熟成のものがお勧め。24カ月熟成はしっかり溶けて、パスタ生地とミートソース、ホワイトソースをつなぐ役目を果たす。