孤独は味方になる

――生活拠点を海外に移し、日本人がいない場所でプレーや生活することに、孤独感はなかったですか?

ホームシックになる人もいるのでしょうが、僕は一人で過ごすのが平気なタイプで、寂しくて落ち込むこともありませんでした。ただ、ポーランドのリーグでプレーしたときは、ホームタウンにはアジア人がまったくいない状況で……。街を歩くと、珍しいモノを見るかのように見られたり、ポーランド語だからはっきり分からないものの、見ず知らずの人にちょっかいを出されたり。いつも薄暗いグレーの空の色も気持ちをどんよりさせ、うまく言えないけれど、「街の中には僕ひとりしか、自分のことを分かってくれる人がいない」という不思議な感覚に陥りました。気持ち的に少ししんどかったですね。

それまで孤独は苦ではなく、むしろ味方だと思っていたんです。自分を見つめ直す時間になるし、自由に行きたいところに行きやすい。海外で一人で過ごしたときの方がフットワークが軽くなって、3日間ぐらい休みがあれば飛行機に乗って、隣国で1泊して軽く観光するなんてこともよくしました。

でも、日本人どころかアジア人も見かけないポーランドでは、孤独が味方にならないときもあるんだなという気持ちになりました。シーズン中は試合に集中できるのでいいですが、シーズンオフは一人で過ごす時間をどう使おうかと。

―――やることがない、話す相手がいないとき、どうされていたのですか?

家の外はマンションやスーパーしかない町だったので、もっぱらインドア生活でした。インターネットにつなげられるテレビを持って行ったので、テレビやパソコンでネットサーフィンしていました。

ちなみに、新型コロナウイルスが拡大し始めた2020年の3月ごろまでは、ドイツのフランクフルトにいたので、ネットサーフィンしながら独学で英語を勉強していました。それが一つの趣味になり、趣味は人生を豊かにし、日々を楽しくするんだと改めて気づきました。「これも知りたい、あれも知りたい」という探求心にもつながり、上達すれば話せるようになったり、Netflixの映画を英語で鑑賞したりするなど、楽しみが一気に広がりました。

コロナ禍で環境が変わったり外出が制限されたり、自粛疲れでストレスがたまっている人は多いと思います。家で過ごす時間が増え、ネットでさまざまな可能性が生まれた今こそ、家でできる楽しみを一つでも増やすことがおすすめです。僕自身、英語の独学がとても楽しかったし、助けられたので。

――それでも環境が変わると、心身ともに大きな影響を受けそうですが。

そこまでマイナスの影響は受けなかったですね。途中から、生活リズムがほぼルーティン化していることが大きかったからかもしれません。海外に渡った直後は、どこに何が売っているかから探し始めて、自分がベストな状態で練習や生活できるようになるまで時間がかかりました。

例えば、食事の面では「このタイミングでこれを食べれば、この練習までにはしっかりと消化できる」「この食物をこの程度の量を食べれば、練習中の動きがいい」「ポーランドはお米がないので、この麦を代替すればもちもちしていて十分ご飯代わりに!」などと分かるようになりました。

薄切りの肉が売っていないので、分厚い肉を自分で薄く切って焼いて、海外でも売っているしょうゆや砂糖で味付けしていました。定期的に日本代表チームの栄養指導を受けていたので、ある程度、バランスのいい栄養を摂取できるように意識しながら自炊していました。そうして自分の生活リズムが整ってくると、ストレスをあまり感じなくなりましたね。

写真提供=ASICS

東京五輪の延期に何を思ったのか

――東京五輪の延期が決まったとき、何を思われましたか?

その報道を受ける前に、ドイツで毎日、感染者数が右肩上がりに増えているニュースを見ていたので、不安とともに、この状況で仮に五輪が開催できたとして、一体誰のための五輪なんだろうと疑問に思い始めました。

欧州から帰国して2週間、ホテルに隔離されていた時も、五輪のことよりも、多くの人の命が危険にさらされているという現状と、この猛威からどうやって自分や自分に関わる人たちを守らなければいけないかということで頭がいっぱいだったと思います。

五輪の延期が発表されてはじめて、目標設定をもう一度見直し、まずは日本でしっかり結果を出して、コンディションも上げてオリンピックに臨めるような準備をしようと頭を切り替えました。でも、当時はランニングも控えていたし、家で10キロや20キロ程度のダンベルを持ってウエートトレーニングをするぐらいしかできなかった。1回目の緊急事態宣言が解除されて、やっと少しずつ動き出した感じでした。

こうやって振り返ると、競技や練習が当たり前のようにできることをとても幸せに思います。僕の職業は、バレーボール選手です。仕事ができるという安心感を、改めて得られた感覚ですね。

――今後の目標は?

所属している古巣のサントリーサンバーズでリーグ優勝するということが、まず大きな目標なので、それを達成することで東京五輪への道もスムーズになっていくかと思っています。

昨シーズンは、コロナでリーグが途中で終わってしまいましたが、その前のシーズンはケガで途中離脱し、シーズンを戦い切れる体を作ることができませんでした。今シーズンはしっかりと体づくりをして、ケガなくリーグを終えることが課題です。

そして、日本代表になればさらにハードなスケジュールが待っているので、それに耐えられるコンディション作りを目指します。ウイルスという自分たちではどうすることもできない現状で気持ちが揺れないためには、目の前の目標や課題に集中してコツコツと準備するしかないと思います。

柳田将洋選手
1992年東京都生まれ。小学1年生からバレーボールを始め、東洋高校では主将として第41回全国高等学校バレーボール選抜優勝大会優勝。慶応義塾大学在学中に全日本メンバーに招集される。サントリーサンバ―ズ入団し、2015/16 Vプレミアリーグ最優秀新人賞を受賞。17年にプロに転向し、ドイツ・ティービー・インガーソル・ビュール、ポーランド・クプルム・ルビン、ドイツ・ユナイテッドバレーズでプレー。20年サントリーサンバーズと契約。

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