その根底にあるのは、「ホフスタッター氏の心配事はどれほど重要なのか」という問いです。この問いの答えを得るべくAI探究を進め、その知見を分かりやすく解き明かしていく本書を読むと、まるで推理小説を読んでいるかのような知的醍醐味が味わえるかもしれません。

その過程こそが『教養としてのAI講義』の面白さなのですが、ここではホフスタッター氏の問いに弟子が出した結論を示唆する引用を示しましょう。ただし、ネタバレをしたくない方はここで読むのを止めてください。

「私たちはまだ、はるか、はるか遠くにいる」

このテーマについて考えていたとき、私はアンドレイ・カルパシーのブログで読んだ、彼の洞察力に満ちた興味深い投稿にとりわけ惹きつけられた。本書で前にも登場したカルパシーは深層学習とコンピュータービジョンを専門としていて、現在はテスラのAI部門を率いている。その投稿の題名は「コンピュータービジョンとAIの状況について。私たちはまだ、はるか、はるか遠くにいる」というものだった。
(第15章 人工知能にとっての知識、抽象化、そしてアナロジー 389ページ)

ミッチェル氏は、ビジネスを含むAI活用全般に関して、現況および今後の動向を端的に現す言葉として、米テスラの著名AI研究者の論文タイトルを引用しています。「私たちはまだ、はるか、はるか遠くにいる」――そして、この言葉の裏付けを『教養としてのAI講義』において分かりやすく提示しています。画像認識の失敗と危険性、自然言語処理の限界、自動運転の困難さ、AIが人間に取って代わる可能性、そしてAIが人並みの知能を獲得することのとてつもない難しさ……。

AIは今後ますます身近になるでしょう。職種や理系文系を問わず、AIを活用する立場になることも多いにあるでしょう。『教養としてのAI講義』の編集者としては、これからAIを活用しようとしているすべてのビジネスパーソンに本書を通して、「私たちはまだ、はるか、はるか遠くにいる」という著者のメッセージを知っていただけたら幸いです。

(日経BP 田島篤)

教養としてのAI講義 ビジネスパーソンも知っておくべき「人工知能」の基礎知識

著者 : メラニー・ミッチェル
出版 : 日経BP
価格 : 2,860 円(税込み)

ビジネス書などの書評を紹介