クラフトビールの新潮流 「国産ホップ」が人気に
クラフトビールの世界で、香りや味わいの決め手である原料のホップに変化が起きている。ブルワリーの近くで栽培した、国産ホップを使うクラフトビールが人気を集め始めているのだ。例えば、横浜ビールは2020年9月に地元産ホップを使った「ヨコハマIPA」を発売。日本産ホップ推進委員会が企画・後援し、各地で勉強会やイベントを開催する「フレッシュホップフェスト」に参加するブルワリーの数は、初回15年の12から、19年には90になった。
背景には、国内でのホップ農家の多様化もある。長らく、大手ビールメーカーが契約する農家でしかホップ栽培が行われてこなかったが、1990年代半ばから、それ以外にもホップを栽培する独立系の農家が登場。現在はホップを栽培する畑が全国に広がり、国産ホップの品質も年々向上しているという。
さらに、日本ビアジャーナリスト協会に所属するHOP SAIJO氏は、「栽培してすぐのホップを使った『フレッシュホップビール』は、他には無いホップの青々しい香りが魅力で、ファンを増やしている」と続ける。
そんな中、ホップの生産地では地元の特産品を生かしたユニークな取り組みが始まっている。一大生産地である岩手県の遠野市では、キリンと農林中央金庫が出資した農業法人「BEER EXPERIENCE(ビアエクスペリエンス)」が、18年から「遠野ビアツーリズム」を実施している。主に昼と夜で、どちらもガイドが同行する2つのツアーを開催。昼は「ビールの里・遠野 満喫ビアツーリズム」と称して、ホップ畑や地元のビール醸造所を巡る。内容は季節によって異なる。夜はガイドが選んだビアバーやレストランを巡る内容だ。
ホップ、ビールで町おこし。つまみの野菜作りも
遠野では他にも、「ビールの里構想」の下、ホップによる町おこしが多数ある。遠野産ホップを使用し、紅茶やヨーグルトに合う甘さの「ホップシロップ」は、産直通販サービス「ポケットマルシェ」や「食べチョク」などを通して全国に流通。地元のクラフトビール「遠野麦酒 ZUMONA」(上閉伊酒造)も楽しめる。
ビールに関連したさらなる試みもあり、ビールのつまみとしてスペインで親しまれているという野菜・パドロンの生産も拡大させている。「遠野パドロンフリット」や「遠野レッドパドロンチョリソー」などの加工品の流通も、ホップシロップ同様の形で進める。
遠野の他にも、京都府・与謝野町など地元ホップを生かした観光誘致の動きが各地で出てきている。また、大手ビールメーカーもホップの違いを打ち出す商品作りに乗り出し、ますますホップに関心を寄せる人が急増中。国産ホップが、ビールの新たなトレンドの一翼を担う日は近い。
(注)遠野のビアツーリズムは、21年2月中旬時点では新型コロナ感染対策で休止中。状況を見ながら再開を目指す。
(日経トレンディ 高田悠太郎)
[日経トレンディ2021年3月号の記事を再構成]
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