長年の高血圧、脳の小さな血管損傷 認知症リスク高く
長年にわたって高血圧の状態が続いている人では、脳の小さい血管の損傷(脳小血管病)が静かに進んでいることが、米国の中高年者を対象とする研究で明らかになりました。脳小血管病は、脳卒中や認知症のリスク上昇と関係することから、改めて血圧管理の重要性が示された形です。
中年期以降の血圧の状態は脳小血管病にどう関係する?
高血圧を発症した年代や、血圧が高い状態が持続した期間の長さが、脳卒中と認知症のリスクに関係することは以前から知られていました。中年期以降ずっと高血圧だった人では、そうでない人に比べ、脳卒中と認知症のリスクが2倍超になるという報告もありました。
認知症や脳卒中の患者に脳MRI検査を行うと、多くに脳小血管病が認められます。MRI検査で検出される脳小血管病の病変の代表は、微小脳出血と潜在性脳梗塞と呼ばれるもので、それぞれ、出血性または虚血性(=血管がふさがって血流が途絶える)の血管障害が存在することを意味します。また、それらの病変の存在は、脳卒中、認知機能障害、認知症を発症するリスクが上昇していることを示唆します。
今回、米Boston大学医学部のRodica Elena Petrea氏らは、認知症や脳卒中を起こす前の高齢者の脳のMRI画像を分析して、中年期以降の血圧の状態と、脳小血管病の関係を調べました。
研究の対象としたのは、1971年に開始された観察研究「Framingham Heart Study第二世代コホート」の参加者です。中年期の時点で脳卒中や認知症ではなく、中年期と高年期の両方の時点で高血圧かどうかが確認されており、高年期の脳のMRI画像が利用可能だった1686人を選びました。中年期の時点で、1686人の平均年齢は52歳で、男性が46%でした。
中年期と高年期の血圧の経時的な変化に基づいて、分析対象者を「正常血圧⇒正常血圧」、「正常血圧⇒高血圧」、「高血圧⇒高血圧」に分けました。
2割に無症状の脳小血管病 中年期から高血圧の人のリスク1.5倍
高年期の段階で、20.6%に無症状の脳小血管病が見つかりました。内訳は、微小脳出血が8%、潜在性脳梗塞が13%でした。血圧が正常のまま保たれていた人と比べると、中年期以降ずっと高血圧だった人では、微小脳出血(表面にも深部にも病変があるもの)のリスクが3.44倍、潜在性脳梗塞のリスクは1.55倍に上昇していました。微小脳出血または潜在性脳梗塞いずれかが見つかるリスクも1.54倍になりました。正常血圧から高血圧になった人においても、微小脳出血(表面にも深部にも病変があるもの)のリスクが2.71倍になっていました。
MRIで検出された微小脳出血または潜在性脳梗塞の病変の「個数」を比較した場合も、中年期から高血圧だった人では、ずっと正常値だった人に比べて2個以上の病変が見つかるリスクが有意に高く、それぞれ3.6倍(微小脳出血)、2.47倍(潜在性脳梗塞)でした。
今回得られた結果は、高血圧の持続期間が脳小血管病に大きな役割を果たしていること、したがって、若いうちから高血圧を放置せず、血圧を下げる治療を受けることが重要であることを示しています。
論文は、2020年7月31日付のHypertension誌電子版に掲載されています[注1]。
[注1]Petrea RE, et al. Hypertension. 2020;76:707-714.
[日経Gooday2020年12月8日付記事を再構成]
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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