新型コロナウイルスの感染拡大が始まって約1年。様変わりした大学生活の中でも、とりわけ大きな影響を受けたのが留学だ。昨春時点で海外で学んでいた学生の多くは突然の帰国を余儀なくされ、渡航を予定していた学生も足止めされた。感染の収束が見えない中、留学を希望する学生はいまも中ぶらりんな状況に置かれている。コロナ禍に翻弄された留学経験者たちはその後どう過ごし、いま何を思うのか。胸の内と後輩たちへのアドバイスを聞いた。
「会話弾むようになった矢先、悔しい」
「状況が一変したのは20年3月半ば。急きょアパートを引き払い、25日発の飛行機のチケットを取りました」
タイのタマサート大学に留学していた明治大学3年の碓井杏菜さんは、コロナ禍での慌ただしい帰国を振り返る。中国・武漢での都市封鎖が始まったのが1月末。2月にはタイ国内でも感染者が増え始め、3月に入ると欧米からの留学生が一斉に帰国した。中旬には大学の授業も全面オンラインに移行。キャンパスに通えず、友だちにも会えない。アパートでパソコンに向かうだけなら現地にとどまる意味はないと考え、帰国便が取れなくなる前に慌ててチケットを手配した。
留学は2019年8月から10カ月間、同大の政治学科で学ぶ計画だった。海外で学ぶのは明治大の付属高校3年のときからの夢。当初は欧米の大学を考えていたが、大学1年時にタイに短期留学し、人々の温かさと暮らしやすさにひかれて、長期留学を決意した。1学期目は授業についていくだけで精いっぱいで、一日中、図書館やカフェで勉強した。帰国することになったのは、授業を楽しむ余裕が生まれ、学食でのクラスメートとの会話も弾むようになった矢先。悔しかったが、日本でオンラインの授業を受け続けることにした。
欧米からの留学生の多くは、時差の大きさに耐えきれず脱落していった。しかし日本とタイの時差は2時間。生活は乱されずに済んだ。授業のオンライン化で案外良かったのは、発言しやすくなったことだと碓井さんは言う。
「対面だと英語が流ちょうな学生の勢いに負けて発言の機会を逸してしまうこともあったのですが、Zoomだとチャット欄に書き込みをしたり、挙手ボタンを押したりできるので、タイミング良く発言できるようになりました。半面、オンラインだと先生が『画面共有』して話が一通り終わったら質問、という風に予定調和の流れになりがち。誰かの何気ない一言から議論が展開していくという、生の面白さはなくなってしまいました」
午前3時からオンライン授業 「対面の倍以上大変」
留学先の米国から帰国。オンライン授業の時差に苦しんだのは、明治大からテンプル大学大学院に留学していた高野瑠音(りゅうと)さんだ。テンプル大がある東海岸と日本の時差は13時間(サマータイム時)。日本時間の午前3時から授業を受ける羽目になった。