取材中も、留学が突如終わってしまった悔しさをにじませたAさんだが、いまは意識してプラスの面に目を向けるようにしているという。

「留学中にできなかったことを、できたかように『盛る』のではなく、期間は短いなりに頑張ったことに焦点を当てようと。難しい会計学の授業にも教授に食らいついて頑張ったし、友人もできた。今も語学力をアップするための努力を続けている。就活ではそういう点をアピールしていきたいです」

それでも得られたものは大きかった

「プラス面に目を向ける」というのは、コロナ禍に翻弄された留学経験者が共通して語った言葉だ。高野さんは、オンライン授業で自分の存在が埋もれないように、ここぞという時にはキーワードを書いたホワイトボードをウェブカメラの前にかざしたり、ズームのリアクションボタンを多用するなどの工夫した。そのことを就活で強調し、第1志望である米国大手IT企業の日本法人から内定を得た。

「コロナ禍の留学でどんな課題に直面し、どう解決しようとしたのかを具体的に話しました。これから仕事をする上でも常に正解のない問題にぶつかるでしょう。その点では、どんな状況でも諦めずに努力する姿勢をアピールできたと思います」

碓井さんも帰国当初は混乱し、悔しい気持ちが強かったが、家族や友人と話す中で、留学で得たものの大きさに気付いた。英語のプレゼン能力が向上したのはもちろん、タイ人学生と語り合う中で、彼らが日本と違って政治について日常的に話し、自分たちが国を変えるのだという気概を持っていることに刺激を受けた。さらに、コロナ禍を海外で経験したことで、進路についての考え方にも変化が生まれた。

「コロナが流行し始めたとき、タイ語のテレビを見ていても状況が理解できず、情報が少ないとどれだけ不安になるかを体験しました。ネットやSNSにあふれる情報の中から信頼できる情報を必死に探す中で、正確な情報を素早く伝えるメディアの役割に目が向き、タイと日本の政府の対応の違いの背景などにも関心が広がった。もともとは航空業界志望でしたが、今はメディア業界に魅力を感じています」

これから留学したいと思っている学生に対するメッセージも聞いた。3人が強調したのは今できることをやる大切さだ。

「留学にいざ行けるとなったときにすぐ行けるように、いまから準備を頑張って」と碓井さん。Aさんは「自分は選ばなかったけど、今だったら、オンラインでの留学が無駄だとは思わない」と言う。言葉が通じず、周囲に圧倒されるもどかしさや悔しさを感じるのはオンラインでも同じ。それが成長のバネになると思うからだ。高野さんもこうエールを送る。「コロナのせいで計画が狂ったと後ろ向きになるのではなく、オンライン化が進んで世界の距離が縮まったというプラス面に目を向けて。準備をしていれば、きっとチャンスはつかめます」

(ライター 石臥薫子)

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