――保険適用に付随し、行政に望む施策はありますか?

「どの医療機関で治療を受けるか。判断材料となる情報公開制度の整備も期待します。先述したとおり、施設ごとに技術レベルは様々です。どこを選ぶか、当事者はネットなどの口コミに頼っている状況です。個別に情報公開している病院もありますが、公開データの基準が統一されてなく、比較できません。例えば出産率。治療を受けている患者全体での出産率を公表している病院もあれば、受精卵を子宮に戻した件数を分母として計算している病院もあります」

「不妊治療が保険適用になれば、新規参入も増えると予想されます。実績・経験が少ない医療機関の参入で不妊治療の質が総じて低下する恐れもあると言われています。治療は身体的負担も伴い、いつまでも無限に続けられません。体への負担を減らすため、できるだけ効果的な治療を当事者は受けたいと願っています。どこでどんな治療を受けられるのか。そして成功率、出産率はどのくらいなのか。年齢別に分ける、それぞれの治療を受けた全体数も出すなど、細かい情報を第三者機関を通じて開示するなど、当事者が比較検討できる情報公開を望みます」

――仕事と治療を両立できる環境整備も課題に上げています。そのほかにも社会に課題解決を望むことはありますか?

「不要に当事者にプレッシャーを掛けないよう、不妊を知っていただくことも大切です。今や5組に1組が不妊治療を受けていて、その成功率は100%ではありません。思っている以上に周囲には不妊治療をしている人が多いのだという現状を知っておいていただけたらと思います。当事者の中には複数回、試みてようやく授かるケースもあれば、何回治療を受けても授からずにあきらめるケースもあります。子どもがほしいのにできない重圧は当事者が一番感じています。『お子さんはいなかったっけ』『2人目はまだつくらないの』といった何気ない言葉に当事者は想像以上に傷ついてしまうものです。もし『不妊の現状』を知っていたら、きっとその何気ない言葉をかけない方は増えてくると思います」

「今後特に心配なのは不妊治療が保険適用になることで、孫を望む老親らが、なんの悪気もなく『国がお金を出すんだから、治療を受けたら』と当人の意思にかかわら勧めてくるケースです。Fineにはすでにこうした相談事例が寄せられています。子どもを持つか持たないか、持つとしても、どのタイミングで持ちたいのか。これらはリプロダクティブ・ライツという基本的人権の一つです。個人の意思をぜひ尊重してほしいと思います。保険適用に合わせて、リプロダクティブ・ヘルス・ライツを広く浸透させることも大切です」

(編集委員 石塚由紀夫)

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