Fineは不妊治療退職に伴う経済損失は1300億円を超えると試算します。スケジュールを事前に立てられない難しさはありますが、治療期間中に仕事が一切できないわけではありません。時間単位の有休取得や、フレックスタイム、始業終業時間の繰り上げ繰り下げなど柔軟な働き方が実現すれば仕事と治療の両立は格段にしやすくなります。「せっかく育てた人材が辞めれば会社にとってもマイナス。まずは治療の実態を知り、何ができるかを考えてほしい」と松本さんは強調します。

松本亜樹子・NPO法人Fine理事長「効果確保へ環境整備が重要」

不妊治療の保険適用は当事者にとって朗報です。子どもを望む人が子どもを持てるようになるには、どんな仕組みが望ましいのか。不妊に悩む当事者同士の支え合いを目的とするNPO法人Fineの松本亜樹子理事長に、当事者視線で見えてくる課題を聞きました。

――不妊治療の経済的負担軽減を長年、国に求めてきたそうですね。

松本亜樹子・NPO法人Fine理事長

「体外受精など特定不妊治療は現状保険の適用外。自己負担が原則なので100万円以上治療に掛ける方も少なくありません。当事者の経済負担軽減のために以前から署名活動を行い様々な要望を提出してきました。ただ、保険適用に関して不妊は疾病ではないとする立場から国はずっと消極的でした。それが2020年に菅義偉内閣が発足し、急に動き出しました。念願がかない、うれしい半面、少し不安もあります。22年4月スタートの予定だと聞きますが、議論に費やす時間はさほどありません。当事者の悩みの解決につながる仕組みができるのか。これからの議論の行方が気がかりです」

――具体的な懸念は何ですか?

「一番のポイントはどんな治療が保険適用になるかです。現在体外受精を実施している医療機関は全国に約600カ所あるといわれています。ただ施設ごとに技術レベルにバラツキがあり、正直なところ技術も金額もその差が大きい印象です。保険となるとどの施設でも同じ金額で治療が受けられることになると思うので、その点では当事者の負担も軽減されてよいと思うのですが、どのレベルの治療までを保険適用にしてもらえるのかが非常に大きなカギになってくると思います。効果がさほど望めない治療を保険適用にされても、当事者にとって最も大切な『子どもを持つ』という希望はかなえられません」

「医療保険が混合診療を原則認めていないことも気になります。不妊は原因も様々で最適な治療法もケース・バイ・ケースです。例えば体外受精でも、卵子が育ちにくい方には育成を促す治療を強化して実施し、妊娠率を高めます。一人ひとりの状況に合わせて、こうしたオプション治療を付け足しながら、体外受精をしているのが現状です。体外受精が保険適用になっても、オプション部分が保険適用外となった場合、混合診療が認められていないままならすべて自由診療扱いとなり、結局治療費が全額自己負担になる恐れがあります」

「保険適用か、自由診療かの二者択一ではベストな治療法を選べなくなるのではないかと心配です。例えば根幹となる治療は保険適用としつつ、オプション部分については自由診療として自己負担とする混合診療を認めてもらったほうが、政策効果が大きいと思います」

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