絶妙の難易度で潜在能力引き出す

増進会HDの本社を含め、グループ企業の中枢は静岡県三島市にある。戦災を逃れた当時はともかく、今となっては首都圏に本社を構えてもよさそうなものだ。しかし、「郵便サービスを使う通信教育の事業者が首都圏に出て行く必然性はあまり高くない。むしろ、地方から全国の受験生を支えてきた志を保ちたい」という思いから、静岡の地を離れる予定はない。

三島に移る前は中伊豆の山中に事務所があった。「かつては封筒の送り先に印刷されている、静岡県の見慣れない住所を不思議がって、『本当に届くのか』と、わざわざ本社を訪ねてくる利用者がいた」という。一時は生家と社屋が隣接していたので、「家族と会社が一体化しているような時代があった」と、藤井氏はほほ笑む。

藤井孝昭増進会ホールディングス社長は創業者(左の胸像)の孫にあたる

拠点は動かさない一方、サービスのほうは格段の広がりをみせている。学習塾ビジネスへの進出は象徴的な事業展開だ。人工知能(AI)を活用した教育サービスや、動画を組み込んだ自宅学習なども提供している。ただ、今も事業の中核に据えているのは、定評のある添削型の通信教育。通信環境の変化に伴い、現在はタブレットと郵便の二本立てに。「タブレットは多機能で、通信スピードも速いが、本番の試験と同じ紙を好む利用者も多い」という。

Z会を語る際、決まっていわれるのは、設問の難しさだ。「難問のZ会」は利用者以外にも浸透しているイメージだろう。過去には自ら高校生向けに「超難問コロシアム」という、高校生の学力ナンバーワンを決めるイベントを開催したこともある。しかし、「出題しているのは良問であって、必ずしも難しいことを重視しているわけではない」と、藤井氏は説明する。「本物の学力を養ってほしい。その最善策が本質的な思考であり、それを導くのが良問といえる」(藤井氏)

大学受験向けの現代文を例にとると、設問が求める正解フレーズの字数から逆算して、漢字の密集度を手がかりに該当部分を探し出したり、空欄・下線部の前後に着目したりといったテクニックを「必勝法」的に指南する参考書や塾が珍しくない。でも、この手の小手先の解法では、手ごわい論述問題には歯が立たない。際どいニュアンスの違いを見抜くことも難しい。書き手の意図を読み取って選択肢に向き合う必要があるからだ。

藤井氏は「Z会は創業当初から東大、京大をはじめとした難関大をターゲットと位置づけているので、小手先の対策を教えるような受験テクニックは視野に入れていない。どんな設問が出されても、本質をとらえる思考力を備えていれば、ちゃんと解ける。だから、Z会の設問は常に本物の思考力を試す。結果としてたまたまそれが難問と映るかもしれないが、ことさらに難問を出そうとはしていない」と、出題に込めた意図を語る。

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