追悼の場、オンラインにも 20歳が問う生き切ることむじょうCEO 前田陽汰さん

株式会社むじょうのメンバー。(左から)杉村元さん、前田陽汰さん、佐々木雅斗さん(2021年1月、東京都内)

「葬儀」の意味を社会に問いかけている大学生がいる。前田陽汰(まえだ・ひなた)さん(20)。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた「葬儀自粛」のニュースに突き動かされ、故人へのメッセージや生前の写真を遺族・知人が共有できるオンラインサービス「葬想式」をはじめた。2020年5月に仲間と立ち上げた運営会社「むじょう」(東京都目黒区)で最高経営責任者(CEO)を務める。

薄れゆく生の実感

「修学旅行で話したこと、忘れないよ」。20年11月、10代後半で亡くなった男性をしのぶ葬想式。サイト画面には800字を超す長文のものを含めた36件のメッセージと37枚の写真が映し出された。3日間の閲覧期間にサイトを訪れた参列者は112人。「実際の葬儀は近親者のみだったので、オンライン上でも参加できてよかった」。故人と家族ぐるみのつきあいがあった男性の感想だ。

オンラインで葬儀を補うような仕組みを作れないか。前田さんがこう考えて動き始めたのは、新型コロナへの不安が高まってきた20年3月末のことだ。

前田さんの名前には「淘汰」の「汰」の字がつく。「淘汰されゆくものに光(陽)を当てるのが自分の使命なんじゃないか」

慶応義塾大学総合政策学部1年に在籍していた20年1月に祖父が亡くなり、葬儀の意味を考えた。葬儀は親しい人の死に接したとき、故人の人生に思いを巡らせ、自分の生き方を考える場ではないか。最近は家族葬が増え、気持ちの行き場がなくなっている。都市部を中心に、死を身近に感じる機会もどんどん減っている。「死に『蓋』がされてリアリティーを失えば、生の実感も薄れてしまうんじゃないか」。こんな意識が膨らんだ。

そこに重なったコロナ禍。家族でさえも満足にお別れができないとのニュースを耳にした。人に会うこともままならない今、どうすれば穏やかに故人を悼む場を持てるだろう。思い浮かんだのが、祖父の葬儀で設けられた「思い出コーナー」。若いころから最近までの写真を前に参列者が語り合う。知らないおじさんが「君のおじいちゃんの若いころはね……」と教えてくれた。「自分が30歳になったときには何をしているだろう」。悲しみだけではない、様々な思いがこみ上げた。

自身も祖父を亡くしたばかりだった佐々木さん

「思い出コーナーをデジタルでつくれないか」。思い立ったその場で大学の友人、佐々木雅斗さん(20)に連絡を入れた。佐々木さんは各界の有力者が支援している17歳以下のクリエーター「未踏ジュニア」にも選ばれたプログラマー。自分の好きな音楽を簡単に配信できるネットラジオ「ポケキャス」を製品化した実績も持つ。サイトのデザインは、島根県立隠岐島前(おきどうぜん)高校の後輩だった杉村元さん(19)に協力を頼んだ。デザイナーの経験はなかったが、自分の目指すものを理解して必ず形にしてくれるとの確信があった。2人は即座に共鳴し、佐々木さんはすぐに試作品を用意してくれた。

実は佐々木さんも祖父を亡くしたばかりだった。故人の写真を集めたスライドショーを作って葬儀で流したところ、多くの人から感謝されたことが心に残っていた。前田さんの構想を聞き「お別れの機会の文化を変えられるかもしれない」と考えた。

杉村さんはコロナの影響でインドネシア留学から戻ることを余儀なくされた

杉村さんは経済や教育の格差の問題を考えようと高校を中退してインドネシアに留学したが、コロナの影響で帰国していた。留学中、知り合って元気に言葉を交わしたホームレスの人が翌日に亡くなるなど、死を目の当たりにした。「人が最期を迎えたときに何かできることがあれば」。こんな気持ちがあったという。

新たなサービスは、悲しみのなかにある遺族の負担にならぬよう、できる限りシンプルなものにすることを目指した。参列者はSNS(交流サイト)で届いた招待状にあるリンクをクリックして名前を書くだけ。ゆかりの人々が投稿したメッセージや写真は、主催した遺族の承認を経て掲載される。幅広い世代にとって使いやすくなるよう「高齢の人に使ってもらって意見を聞き、改良を重ねた」(佐々木さん)。設定に手間のかかるページはつくらず、フォントも大きめにするなど工夫した。そして20年7月に「葬想式」の試作版をリリース。12月に本格展開を始め、現在は2万円の利用料金で提供している。

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