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大塚屋の店内。おいしく飲むための温度帯にこだわり、酒にはぬるかん、熱かんなどとお薦めの温度が記されている

「初心者には、おいしい温度帯が広い方が楽しみやすい。酒米の王者と言われる山田錦は、バランスがよく、どんな温度帯にも対応しやすいので、かん酒ビギナーにはお薦めです」と横山さんがまず手に取ったのは、神奈川県・泉橋酒造「黒とんぼ 生もと純米酒 山田錦」(もとは、とりへんに元)と福岡県・旭菊(あさひきく)酒造「旭菊 綾花(あやか) 特別純米 瓶囲い 山田錦」だ。

瓶囲いというのは、通常タンクで貯蔵する酒を一斗瓶(一升瓶10本分)で貯蔵する方法。きめの細かい熟成ができるという。「『綾花』はやさしくチャーミングな味わいで冷やで飲んでもおいしいんですが、かんにするとやさしい甘さがでてくる。繊細な味わいなので、ぬるかんがお薦め」(横山さん)

一方、生もと造りの「黒とんぼ」は酒の厚みがあるので、ぬるかんより上かんぐらいの方が隠れた多層的な味わいがでるという。生もと造りの酒では、奈良県・久保本家酒造の「生もとのどぶ」(もとは、とりへんに元)も挙がった。こちらは何とにごり酒。「にごりが入ると味の構成要素が増えて多層的になります。『生もとのどぶ』は熱かんがおいしいですよ」

右から、初心者に向くという泉橋酒造「黒とんぼ 生もと純米酒 山田錦」、旭菊酒造「旭菊 綾花 特別純米 瓶囲い 山田錦」。左端は久保本家酒造「生もとのどぶ」。にごり酒だ

もう一つ、通向きと教えてもらった酒も生もと造り。大阪・秋鹿酒造の「秋鹿 生もと 純米吟醸 無濾過 原酒 山田錦」(もとは、とりへんに元)で、通称「もへじラベル」と呼ばれる、自営畑でこだわりの無農薬栽培で育てた山田錦を用いた酒だ。

特別な酒で、蔵のトップブランドである。純米吟醸であるこの酒は、「おかんにしなくてもきれいな清涼感がある味わいですが、かん酒にした方がおいしい。きれいな酸があってその中に骨太な味がある。輪郭が崩れないんです。自然な造りをしているので、山菜やジビエなども合います」。かん酒の世界はげに奥深い。

右端が、秋鹿酒造「秋鹿 生もと純米吟醸 無濾過 原酒 山田錦(もへじラベル)」。酒蔵のトップブランドの酒だ

最後に、最も手軽なおかん向きの酒として、カップ酒を選んでもらった。すべて純米酒だ。まずは玉櫻酒造「玉櫻 純米酒 悠々燗々」、太田酒造場「辨天娘 純米 五百万石」、山根酒造場「日置桜 野良カップ 純米」(福ねこラベルワンカップ)。玉櫻酒造は島根、あとは鳥取の酒蔵の酒だ。先に「もへじラベル」を紹介した秋鹿酒造にも「秋鹿 純米バンビカップ」というカップ酒があった。西日本の酒が並んだが、「酒は純米、燗ならなお良し」という言葉を残した著名な鳥取県の酒造技術指導者、故・上原浩さんの影響もあり、「かん酒に向く酒はどちらかというと西のものが多い」(今田さん)という。

純米のカップ酒では珍しい紙カップに入った「悠々燗々」を飲んでみた。昨年、年の末に発売されたもので、330円(税込み)と手ごろな値段もうれしい。紙カップでも、そのまま湯煎にできる作りで、蓋を開けると、あめ色の酒がのぞいた。熟成させた酒なのだ。温めると口当たりがまろやかになり、カップに描かれたクマのイラストや液色と相まって、甘さはないがハチミツのようなコクを感じる。

アルコールは体温に近い温度で吸収される。だから、しばらく時間がたってから酔いが回る冷酒に比べ、かん酒はアルコールが回るのが早く、飲みすぎる心配も少ないと言われる。実際カップ酒一杯でも、すぐにほろ酔い加減となりいい気分になってきた。かん酒の悦楽へ、第一歩だ。

(ライター メレンダ千春)


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