そもそも、企業が環境負荷の低減(グリーン)と企業の成長(グロース)が両立するという前提に立っていることについて、そのようなことが本当に実現可能なのか。一部の経済学者の間では否定的な声が上がっているのも事実です。

広がる「スロー」という考え方

「責任ある消費者が企業を動かし、社会を変える」このムーブメントをけん引するのが「スロー」という価値観です。

スローとは、ただ遅いということではありません。

例えば、ハンバーガーのように10分ですませられるファストフードに対し、材料を集め、みんなで料理を作るというプロセスを大切にし、人と人との関係性を育みながら食事を楽しむことが、スローフードのムーブメントです。

ファッションの世界では、大量生産のファストファッションに対し、スローファッションというムーブメントも生まれています。オランダの「マッドジーンズ」というジーンズ会社はジーンズを売らずに「貸す」ことで、1年後にジーンズを回収し、新たに作られたジーンズを提供するサービスを始めています。このような廃棄ゼロのジーンズが「かっこいい」という価値観をつくり出しました。

カーボンニュートラルの時代。個人の行動の背景として「スロー」という価値観が注目されている(写真はイメージ=PIXTA)

一部の航空会社は旅行者1人当たりが排出するCO2を計算し、その分を相殺するための環境保護プロジェクトに寄付する「カーボンオフセット」の取り組みを積極的に旅行者に勧めています。「責任ある旅行者」たちに、個人でも参加できるカーボンニュートラルの仕組みを提供し始めました。

今では、スローモビリティー(徒歩や自転車での移動)、スローツーリズム(人とつながる観光)、スローエナジー(自分で発電)など、あらゆる分野にスローカルチャーが広がっています。

持続可能性に向かっての、消費と企業活動の好循環が生まれ始めているのです。

スローの考えを行政に当てはめた「スローガバメント」という考え方もあります。起きた問題を縦割りでファストに解決しようとするのではなく、一歩下がって「この問題はなぜ起きているのか?」と行政機能に横串を入れて考え、本質的な解決策をスローに見つけていこうというものです。

「2050年カーボンニュートラル」のような国レベルでの社会課題解決は、どうしても国任せ、人任せになりやすいものです。しかし、社会課題解決が本当に実を結ぶかどうかは、私たち一人ひとりの行動から始まります。その行動の背景にある考え方として、今「スロー」という価値観が注目され広がり始めているのです。

正解のない時代だからこそのスローイノベーション

政府も企業も、経済成長と地球の持続可能性を両立する「グリーン成長」に向かって大きく舵(かじ)を切り、私たち一人ひとりが「スロー」の価値観から行動を起こすとして、ここで「本当にこれからも成長が必須なのか?」という問いが生まれます。

高度成長期、お金があれば幸せになれると多くの人が信じていました。つまり、個人が幸せになるためには、経済成長が必須だと考えられてきたのです。そして今、経済成長と地球環境保護を両立するというストーリーは、私たち一人ひとりの幸福感や人生の満足度につながっているのでしょうか。

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