
そして日本でも欧米と同様に「個別最適化教育」を重視するようになったことを話します。日本では明治期から「集団教育」がベースでしたが、政府も「個の教育」の重要性を唱えるようになりました。私は日本ユネスコ国内委員会会長や文科省の中央教育審議会委員を務めてきましたので、国内外の教育の方向性はよく理解しています。
地区別懇談会には保護者の約7割が出席し、6年間、年2回必ず出席する方も少なくありません。熱心な保護者の中には有名なアナウンサーや経営者の方もいます。「この前の校長のソクラテスの話は面白かった。子どもとも色々話し合った」などと評価してくれたり、相談が寄せられたりすることもあります。こんな家庭環境の中で、自分について考え、どう生きたらいいのか、どうすれば社会に役立つ人間になるのか、学年を上がる度に自問自答する生徒が次第に多くなっていきます。
両校の開校以来、30~40年かけて保護者も巻き込んだ形の学校づくりに励んできました。結果、意識の高い生徒が数多く巣立っていったわけです。地域社会の課題解決に奔走する生徒は年々増えています。
生徒が地元巻き込みタピオカのゴミ対策 LGBTQ討論会も
渋渋は渋谷の街の真ん中にあります。一時タピオカがブームになり、道ばたに容器を投げ捨て、ゴミになるケースが増えていました。そこで渋渋のある生徒は「ゴミを減らす方法はないか」と考えましたが、生徒自身がボランティアでゴミ掃除をすることにも限界があります。教師など大人たちと相談し、「受益者負担の観点から考えると、ごみを減らすことでプラスになるのは商店街なので協力してもらおう」と地元商店街を巻き込んでゴミ対策に取り組んだそうです。
また19年に渋渋の高校生有志のメンバーが中心となり、LGBTQ(性的少数者)セミナーのワークショップを校内で開講しました。生徒たちだけでなく、地域の大人を巻き込み、自分たちの意識や行動を変容させようと働きかけたのです。この働きかけに、渋谷区の長谷部健区長が応じてくださいました。会の講師として参加し、直接、生徒と討論する時間を設けてくれました。渋谷区は15年に全国で初めて同性カップルに対するパートナー証明書を発行した自治体として知られています。このような証明書がないと、同性カップルはアパートの一室を借りるのも難しいそうです。
LGBTQなどの社会問題に時間を費やしても大学入試には直接プラスにはならないかもしれません。しかし、人はそれぞれ違うのだという気づきにつながっています。そして様々な社会問題を解決するため、自分は何を学べばいいのか、どんなキャリアを目指すのかを考えるようになればしめたものです。そのような生徒は海外大を含め自分の進路を真剣に考え、努力します。気づいた生徒は、放っておいても社会に役立つ人材に育っていきます。
麻布高校を経て東京大学法学部卒、1958年に住友銀行(現三井住友銀行)に入行。62年に退職し、父親が運営していた渋谷女子高校を引き継ぐ。70年から渋谷教育学園理事長。校長兼理事長として83年に同幕張高校、86年に同幕張中学をそれぞれ新設。96年に渋谷女子高を改組し、渋谷教育学園渋谷中学・高校を設立。日本私立中学高等学校連合会会長も務めた。
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