大河主演の吉沢亮 「まだ早い」と言われる挑戦したい
吉沢亮インタビュー(下)
芸能界入りは2009年の吉沢亮。21年のNHK大河ドラマ『青天を衝け』で平成生まれとして初めて主演を務め、渋沢栄一を演じている。撮影現場の様子など語った前回の「『青天を衝け』吉沢亮 渋沢栄一をエネルギッシュに」に引き続き、今回は映画やミュージカル、今後の展望について話を聞いた。
『AWAKE』は、上映館数約50と中規模ながら、昨今映画界で気炎を吐くキノフィルムズの企画で、同社の第1回木下グループ新人監督賞を受賞、ニューヨーク大学で映画を学んだ新鋭・山田篤宏の初長編作だ。
幼少の頃からのライバル・陸(若葉竜也)に負けたことで棋士の道を諦めた青年・英一(吉沢)は、無気力な大学生活を送るなかで、ひょんなことからコンピューター将棋に出合う。やがて英一は、そのプログラミング開発にのめり込んでいき、今度はコンピューター将棋の開発者として再び陸と対戦することとなる。
「将棋しか持っていなかった男がそれを失うことによって、挫折しながらも、また新しい道を見つけていく。とてもストレートな物語で、僕はそれがすごく好きです。撮影では将棋を指す手元を映すことが多かったので、指の形や角度などは、監督などとかなり話し合いながら緻密に演じて。将棋ファンの方々はやっぱりそういうところも見られると思うので、そこはしっかりこだわりました。英一自身はあまり多くを話すタイプではなく、主にしぐさや行動で感情を表す人。英一の小さい頃を演じていた子役の梅谷祐成君がすごく良い芝居をしていたので、自分の対局シーンでは彼が行っていた目の動きや体の動き方などをくみ取って演じました。同じ人間を演じているのでそこは大切に、というか、単純に僕がマネさせてもらっただけなんですけど(笑)。
この作品も周りの役者の方々が本当に素晴らしくて、お芝居をしていてすごく楽しかったです。若葉君とは4シーンぐらいしかご一緒していないしセリフは一言も交わしていないんですけど(笑)、でも強烈に印象に残るお芝居をされていて。撮影をしている段階からいい作品になるなという実感があってうれしかったですし、出来上がったものを見ても、やっぱりすごくいいなって。これまでに出演させていただいた作品のなかでも、特に好きかもしれません」
20年12月6日まで上演されていたミュージカル『プロデューサーズ』も、吉沢にとっては大きな刺激を受ける仕事になった。
「東急シアターオーブというあれだけ大きな劇場に、あれだけのお客さんが入っていて。これまでとは何か違う舞台の景色を見ているような気がしたと言いますか。うまく言えないんですけど、『この人たちは本当に全員、自分たちの芝居を見に来てくれているんだ』という、どこか不思議な感覚になっていたんです。エンタテインメント色が濃い作品だからでもあるんでしょうけど、観客の方々の笑い声や拍手などと一緒に1つの作品を作り上げているなという感覚がありました。それはきっと、このご時世の中でお客さんを入れて行うことができたという喜びもあったんだと思います。
20年はそういう意味でも、いろいろと考えることが多い年でした。撮影していた作品が2本くらい途中で止まってしまって、どうなるのか分からない状況になって。再開されてからもマスクを着用してリハーサルに臨むという、今までだったらありえなかったことが当たり前になって、これまでは普通だったことが、どんどん難しくなっている――ちゃんとしたエンタテインメントを届けるためにはそれをやらなくちゃいけないということを頭では理解しているんですけど、なかなか素直には受け入れられない部分もあって。すごく難しいなあと思いました。
大河ドラマの現場でも演出の方が最初はマスク姿でのリハーサルに戸惑っていらして、『リハしてみたもののどんな表情をしてるのか分かんないから、とりあえず1回本番をしてみよう』みたいな感じで始まりました」
大河ドラマの現場は規模がひときわ大きく、日本のドラマ作りのなかでも、最もいい環境だ。その中心にいる今、吉沢自身が芝居で心掛けていることは?
「今というだけでなく、どの作品においても小手先でやりたくない、ちゃんと常に全力でぶつかっていきたい、という思いはあります。あとはできる限り自然体でいること。少し前、22、23歳くらいまでは『こういうふうにしてやろう』という野望が強くて、現場に入る前に声のトーンや表情などをすごく作り込んでいたんです。でも今はお芝居をする上で、もちろん表情を作り込んだりすることが大事な時もあると思うんですけど、1番大切なのは『そのセリフを言うときに自分が何を感じているのか』という気がしていて。『役というフィルターを通して自分の感情をただぶつけるだけのほうがいいんだろうな』というのが、最近の僕が考えていることです。そういう役作りが正解かどうかは、まだ模索中ではありますけど。
あとは、『青天を衝け』もそうですが、やっぱり何歳になってもチャレンジはしていたいなと思います。『この役できそうだよね』と思われるような役ばかりしていても自分が楽しくないですし。むしろ『いや吉沢亮には、まだ早いだろう』みたいな、そういう何か逆境があるほうが僕はうれしいです。常に何か挑戦している姿勢のままでいたいなとは思います」
そんな吉沢が新たにチャレンジしたい役柄とは。また最後に、役者として見据えている未来について聞いた。
「演じてみたい役としては、僕、意外と刑事や医者といった職業ものの役柄にガッツリ取り組んだことがなくて。本格的な刑事サスペンスや医療ドラマに臨んでみたいなという気持ちがずっとあります。
ただ21年はもう、本当に大河一色。見てくださる方々に受け入れていただけるかどうかは始まってみないと分からないですが、とりあえず全力で撮り切りたいと思います。そして大河が終わったら、ちょっとプライベートを充実させようかなと計画中です。
役者という仕事は大事なものですし、『どこまでいけるか』という向上心もありますが、あまりにも役者一色になってしまうと、それはそれで中身のない人間になってしまう気がして。仕事は仕事、プライベートはプライベートという上手な切り分けができる人でいたいなというのも、心掛けていきたいです」
大河ドラマ第60作。約500もの企業を育て、約600の社会公共事業にも関わった「日本資本主義の父」渋沢栄一を主人公に描く。幕末から明治にかけての激動時代の大渦に翻弄され、挫折を繰り返しながらも高い志を持って未来を切り開いていった、その生き様とは。(放送中/NHK総合日曜20時他)
実際の対局を基に描かれた青春映画。人付き合いが苦手な英一(吉沢)は、ライバルに負けたことを機に将棋のプロの道を諦める。その後、英一はコンピューター将棋と出合い、自ら生み出したプログラムで大会を制するほどに。やがて彼のもとに棋士との対局話が舞い込み……。(Blu-ray&DVDは2021年3月24日発売)
(ライター 松木智恵、日経エンタテインメント! 平島綾子)
[日経エンタテインメント! 2021年2月号の記事を再構成]
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