老後の備えに個人年金保険? 低金利でデメリット多く
自分年金づくりに適しているのは、つみたてNISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)で投資信託の積み立てをすることだとお伝えしてきましたが、世の中にはほかにもいろいろな金融商品がありますよね。老後のための金融商品としてすぐに思い浮かぶのは、保険会社が販売している「個人年金保険」ではないでしょうか。実際に、老後が心配で複数の個人年金保険に加入しているという若い人を見かけますが、これってどうなのでしょう。今回は個人年金保険について見てみます。
金利が高い時代は有利だったが……
個人年金保険は、毎月保険料を支払って、60歳あるいは65歳から年金を受け取る仕組み。契約者が払った保険料は保険会社が運用します。その運用利率(予定利率といいます)は契約時に決まり、それによって、年金の額とそれを何年間受け取るかも契約時に決まります。元本割れすることがなく、将来いくら受け取れるかがあらかじめわかるので安心感があるといえるでしょう。
この仕組みだと、金利が高いときに契約すれば、その後金利が下がっても高い金利がずっと適用されて有利。受け取る年金の総額も、払い込んだ保険料の総額を大きく上回ります。
でも今はご存じのとおりの超低金利。個人年金保険の予定利率も1%程度となっています。「1%なら定期預金よりずっと高い」と思うかもしれませんね。でも、個人年金保険には死亡保障がついていて、そのためのコストが払った保険料から差し引かれるため、実際の運用利率は1%より低くなります。
利率が低いと、払った保険料に対して受け取れる年金額も少なくなります。逆にいうと、受け取る年金の総額が同じだと、金利の低い今は、金利が高かった時に比べて保険料が高いということです。
現在の契約例を見てみると、60歳から120万円を10年間受け取る個人年金保険に30歳の人が加入した場合、毎月の保険料は3万2000円程度となります。これだと、30年間保険料を払い続けても48万円しか増えないことになります(もし自分自身で毎月3万2000円を30年間積み立てて年1%で運用できたら、およそ190万円増えます)。
保険商品ならではのデメリット
元本割れしない代わりにお金が増えることも期待できないという点は、個人年金保険も預金と同様ですが、個人年金保険には預金にないデメリットがあります。
一つは、契約時の利率が契約終了まで続くということ。
例えば1年ものの定期預金を自動継続にしていると、更新時に金利が上がっていたら、高い金利が適用されます。
一方、個人年金保険は年金を受け取るまでの間に金利が高くなったとしても、予定利率は変わりません。今のような低金利のときに契約すると、低い予定利率が20~30年以上も適用され続けることになるのです。
もう一つは途中解約するととても不利なこと。
定期預金を中途解約すると、普通預金の金利が適用されることはあっても、元本割れすることはありません。
個人年金保険は解約した場合、契約してからの年数に応じたお金が返ってきますが、多くの場合その金額は払い込んだ保険料の総額を下回ります。
個人年金保険の加入後に、収入が減ったり子どもの教育費や住宅ローンで家計が厳しくなったりして、保険料の負担が重くなることがあります。でも解約すると損してしまうので、やめるにやめられないというケースを、これまでに何度も見てきました(結局、損を覚悟で解約することになるのですが……)。
iDeCoも60歳までやめることができませんが、毎月の掛け金額は年に1回変更することができます。家計が厳しいときは掛け金を減らし、余裕ができたら増やすといったことができるし、掛け金の拠出を一時停止するということも可能です。
個人年金保険にはそうした自由度がないのです。
外貨建ては為替リスクの割に利率が低い
円建てではあまりに利率が低いので、米ドルや豪ドルで運用する外貨建ての個人年金保険も販売されていますが、今は世界的に低金利なので、外貨建てだからすごく利率が高いというわけではありません。
また外貨建てには為替のリスクがあります。契約時に約束されているのは外貨建てでの年金額であり、年金受取時に契約したときより円高になっていたら、年金額は減ってしまいます。
節税メリットはごくわずか
個人年金保険は「生命保険料控除があるので節税になる」というセールストークが使われることがあります。個人年金保険の保険料は所得から差し引くことができるので、これは事実なのですが、控除できる額には上限があり、所得税は年4万円、住民税は年2万8000円です。年収400万円の人だと、所得税・住民税合わせて節税額は最大でも年6800円ほど。個人年金保険のデメリットを補うほどではないでしょう。
こうして見てくると、円建てでも外貨建てでも、今、個人年金保険に加入するメリットはないことがわかりますよね。資産をつくるにあたって、減らしたくないお金は預金か、国が元本を保証している個人向け国債を利用し、増やしたいお金は投資信託の積み立てを使うのがおすすめです。
オフィス・カノン代表。ファイナンシャルプランナー(CFP)、1級ファイナンシャルプランニング技能士。千葉大卒。法律雑誌編集部勤務、フリー編集者を経て、ファイナンシャルプランナーとして記事執筆、講演などを手掛けてきた。著書に「だれでもカンタンにできる資産運用のはじめ方」(ナツメ社)など。http://www.m-magai.net
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