日経ナショナル ジオグラフィック社

泳いだ証拠か、歩いた証拠か

これらの新たな化石に関する知見が発表されるのを受け、ホルツ氏と英ロンドン大学クイーン・メアリー校の古生物学者デイビッド・ホーン氏は、鼻から尾の先までスピノサウルスの解剖学的な特徴を調べ、水中でどのように移動していたかを再評価した。2人はそれぞれの特徴について、水中を歩いていた証拠となるか、泳いでいた証拠となるか、あるいはそれらの解釈と合致するかを調べた。

ホーン氏とホルツ氏によれば、スピノサウルスのS字を描く長い首は、水面を泳いでいるか、サギのように浅瀬に立っているとき、獲物を上から待ち伏せるのに適しているという。対して、現代のアシカのように、水中で積極的に獲物を追い掛ける捕食者は、首が太くて短い傾向にある。

また、スピノサウルスの目と鼻孔は頭蓋骨の頂点にないため、呼吸したり見たりするには、頭の大部分を水から出しておく必要があったと研究チームは指摘する。ただし、鼻孔が鼻のはるか後方にあるため、鼻先を水に入れたまま楽に呼吸できたはずだ。こちらも浅瀬で獲物を待ち伏せるのに最適な特徴だと言える。

研究チームはさらに、スピノサウルスの尾は泳ぐのに役立っていたかもしれないが、水中で魚に突進できるほど筋肉質でも効率的でもなかったのではないかと補足している。「スピノサウルスの尾が泳ぎの助けになっていた可能性があることには同意します」とホルツ氏は述べている。「しかし、その効率は獲物を追い回す捕食者はもちろん、奇襲を特徴とするワニのレベルにすら達していません」

ホーン氏とホルツ氏は、スピノサウルスの尾が別の目的を果たしていた可能性を示唆している。現代のトカゲの仲間であるグリーンバシリスクをはじめ、パドルのような高さのある尾が社会的、性的な機能を担う例もある。

イブラヒム氏らはこの解釈を退け、ホーン氏とホルツ氏の論文はイブラヒム氏らの論文の明示的な反証となる新たなデータを示していないと主張している。

イブラヒム氏らの論文の最終著者に名を連ねる米ハーバード大学の古生物学者ステファニー・ピアス氏はメール取材に対し、「私から見れば、今回の論文に示された解剖学的特徴の組み合わせは、水中環境への力強い適応を示唆しています。つまり、水中を泳げる半水生の動物です」と述べる。「彼らが論文で非常に狭く定義しているように獲物を追い掛ける捕食者ではありませんが、泳いで獲物に突進し、水中で捕まえることはできたと考えています。彼らは定義にこだわりすぎています」

ホーン氏とホルツ氏の論文はもちろん、スピノサウルスがどのように狩りをしていたかについての最終的な結論ではない。新たな化石が発掘されたとなればなおさらだ。イブラヒム氏らは2019年から2020年にかけて、足と足首の骨を含むモロッコのスピノサウルスの化石を新たに入手した。スピノサウルスの足に水かきがあったかどうかを確かめることができるかもしれない。

イブラヒム氏は次のように述べている。「スピノサウルスの本当の姿を知りたい人は、そのまましばらく待っていてください。なぜなら……私たちは骨を手に入れたのですから!」

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年1月30日付]

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