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9人怪死「ディアトロフ峠事件」 科学が迫る真相

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ナショナルジオグラフィック日本版

1959年1月23日、ロシアのエカテリンブルクにあるウラル工科大学の学生9人とスポーツ指導員1人のグループ計10人が、スキーと登山をしに厳寒のウラル山脈の大自然に分け入った。

途中、1人が関節の痛みを訴えて引き返したが、23歳の工学部生イゴール・ディアトロフをリーダーとする一行は登山を続けた。のちに捜査員が現場で見つけたカメラフィルムや日記によると、彼らは2月1日、雪に覆われたホラート・シャフイル山(地元のマンシ族の言葉で「死の山」を意味する)の斜面に大型のテントを張ったようだ。

男性7人と女性2人、計9人の消息はその後、途絶えた。

数週間後、ホラート・シャフイル山に到着した捜索隊は、雪の中からかろうじて一部が出ているテントを発見した。テントは内側から切り開かれたようだった。翌日、1本の針葉樹の近くで最初の遺体が発見された。

それからの数カ月間、雪が解けるにつれて、捜索隊はぞっとするような遺体を発見していった。9人の遺体はいずれも山の斜面にあったが、不可解にも服を脱いでいたり、頭蓋骨や胸部を激しく骨折していたり、眼球がなかったり、舌が失われていたりしたのだ。

個々の遺体はさながら凄惨なパズルのピースだったが、それらを組み合わせることはできそうになかった。捜査機関は彼らの死因を「未知の自然な力」によるものとし、ソ連当局はそれ以降、口を閉ざした。秘密主義の国で発生した衝撃的な事件は、詳細が不明なままにされたことで、秘密の軍事実験説からイエティの襲撃説まで、62年後の現在にいたるまでさまざまな陰謀論がささやかれることになった。

だが2021年1月28日付で学術誌「Communications Earth & Environment」に発表された論文は、今までで最も現実にありえそうな説明を与えている。論文を執筆した2人の科学者が指摘するのは、雪を掘ったのち時間をおいて発生した奇妙な雪崩が、結果として9人の命を奪った可能性だ。この雪崩のシミュレーションには、自動車の衝突実験や映画『アナと雪の女王』もヒントになったという。

従来の雪崩説にいくつもの疑問

一行が遭難した場所は、リーダーにちなんでディアトロフ峠と呼ばれるようになった。近年、この事件に対する関心が高まったことや、とっぴな仮説が広まったことを受け、ロシア当局は再調査を行った。

2019年に発表された調査結果では、9人は主に雪崩によって命を奪われたとされた。しかし、実際に雪崩が発生したという記録はなく、どのように発生したかの明確な説明も示されないなど、報告書は科学的な厳密さに欠けていた。透明性のない政府による型通りの説明は、かえって疑問の声を噴出させることになった。

雪崩説は1959年の事件当時から提案されていたが、疑問視する人が多かった。一行がテントを張るために雪を掘った斜面は、雪崩を起こすには傾斜が緩すぎるように見えた。2月1日の夜には、雪崩の引き金になるような降雪はなかった。

遺体には鈍器で付けられたような外傷や軟組織の損傷が見られたが、そのほとんどは、雪崩の犠牲者に典型的なものとは異なっていた。なお、雪崩による死因は窒息死が多い。また、法医学的データによると、一行が斜面の雪を掘ってから雪崩が発生するまでに少なくとも9時間の差があったことになり、そのことも不思議に思われた。

今回の論文の著者の一人、スイス連邦工科大学チューリヒ校の地盤工学者アレクサンダー・プズリン氏は、この時間差に注目した。氏は2019年、地震から数分から数時間後に発生することがある雪崩の仕組みについて、学術誌「英国王立協会紀要A(Proceedings of the Royal Society A)」に論文を発表している。氏はロシア育ちだが、ディアトロフ峠事件について知ったのはほんの10年前のことだった。この不吉な事件とその原因に強い興味を持ったものの、1人で着手するのにはちゅうちょしていた。

スイス連邦工科大学ローザンヌ校の雪崩シミュレーション研究室を率いるジョアン・ゴーム氏は、2019年にロシア当局が事件の再調査を行っていた頃にプズリン氏と知り合った。雪崩の時間差が謎解きの鍵になると考えた両氏は、協力して分析モデルとコンピューター・シミュレーションを作成し、登山者の命を奪った空白の時間の再現に挑んだ。

この科学研究はプズリン氏のロシア人の妻からも応援された。「ディアトロフの謎を解いているんだと妻に言ったら、初めて私を心から尊敬するまなざしで見てくれました」と氏は振り返る。

最新研究による説明

雪崩が発生するには斜面の傾斜が緩すぎるという批判に対しては、早い段階で答えが出ていた。斜面は見た目ほどなだらかではないことが判明したのだ。なだらかに見えたのは起伏に富む地形が雪に覆われていたからで、実際には30度近い傾斜があった。最初に行われた現地調査の報告書には、下層の雪が固まっておらず、その上の雪が滑りやすくなっていたことも記されていた。

次は雪塊の問題だ。一行がテントを張るために雪を掘ったことで斜面は不安定になったが、雪崩が起こるには積雪が足りなかった。当時の気象記録では、その夜に雪は降らなかったことになっているが、ディアトロフの一行の日記には、非常に強い風が吹いていたと記されている。

これは低温の空気の塊が斜面を滑降する「カタバ風」だった可能性が高い。この風が山の高いところからテントに向かって大量の雪をもたらし、もともと不安定だった斜面にさらなる負荷をかけたのだ。そう考えれば、一行が雪を掘ってから雪崩が発生するまでに9時間の差があったことも説明がつく。

両氏のコンピューター・シミュレーションは、雪崩が小規模だったことを示している。テントを襲った雪塊は長さ約5メートルで、車1台分ほどの大きさだった。最初の調査で雪崩の証拠が見つからなかったのは、雪塊が小さすぎたからだ。小さな雪塊は、一行がテントを張るために掘った穴をちょうど埋める量で、その上に新たな雪が積もれば見分けはつかなくなる。それではなぜ、小規模な雪崩が遺体にあれほどの外傷を残したのだろうか?

ヒントは『アナと雪の女王』に

ヒントと情報は意外なところにあった。2013年のディズニー映画『アナと雪の女王』で雪の動きが見事に描かれていたことに衝撃を受けたゴーム氏は、どうやって表現したのかをアニメーターに聞いてみることにしたという(ウォルト・ディズニー・カンパニーはナショナル ジオグラフィックパートナーズの主要株主です)。

ゴーム氏はハリウッドを訪ね、作品中の雪の効果を担当した専門家に会った。それから、映画の雪のアニメーションのコードを自分の雪崩シミュレーションモデル用に修正し、雪崩が人体に与える衝撃をシミュレートした。

それには、雪崩に巻き込まれた人体にかかる力や圧力の現実的な値が必要だ。その情報は自動車産業から得られた。

「米ゼネラル・モーターズ(GM)が1970年代に100体の死体の肋骨を折る実験をしていたことがわかったのです」とプズリン氏は言う。自動車事故の際に車内の人がどうなるかを調べるために、「さまざまな重さのおもりを、さまざまな速度で、死体にぶつけたのです」。こうして得られたデータは、のちにシートベルトの安全性の基準に役立てられることになった。

幸運だったのは、GMの実験で、死体を硬い支持体に固定した場合と、そうでない場合についても検証されていたことだった。実は、ホラート・シャフイル山の一行は、スキー板の上に寝具を置いて寝ていたのだ。両氏はこのデータを使って、テントで寝ている間に雪崩に巻き込まれた人々が受けた衝撃を正確に知ることができた。

両氏のコンピューターモデルは、この条件下では、登山者たちの肋骨と頭蓋骨を折るには長さが5メートルの雪塊で十分であることを実証した。プズリン氏は、彼らのけがは重篤だったが致命的ではなく、少なくとも即死することはなかったと見ている。

陰謀論との闘い

雪崩の後に何が起こったかは推測するしかないが、現時点では、一行は雪に埋もれたテントから脱出し、1.5キロメートルほど下ったところにある森の中に逃げ込んだと考えられている。3人は重傷を負っていたが、全員がテントの外で発見されているので、軽傷者が重傷者を引きずり出したとみられる。「勇気と友情が、彼らにそうさせたのです」とプズリン氏は言う。

9人の多くは低体温症で死亡したが、けがが死因となった人もいた可能性がある。一部の遺体は衣服を身につけていなかった(寒さの中で衣服を脱いでしまう矛盾脱衣という異常行動で説明できるかもしれない)。放射能汚染が確認された遺体もあった(キャンプ用ランタンに含まれるトリウムのせいかもしれない)。また、一部の遺体の眼球や舌がなくなっていたのは、単に死骸をあさる動物に食べられたせいかもしれないが、こちらも真相はわからない。

今回の研究は1959年にディアトロフ峠で起きたことのすべてを説明しようとするものではないし、この事件が完全に解決されることはないだろうとゴーム氏は言う。氏らは単に、死亡事故のきっかけとなった出来事について、合理的な説明を試みたにすぎない。

犠牲者の遺族には存命の人もいて、謎に包まれたこの悲劇に今も心を痛めている。ロシア国内には、登山者たちが無謀な冒険によって命を落としたと批判する声もある。だがプズリン氏は、雪崩が発生した状況は経験豊富な登山家も驚くほど特殊だったと強調し、この場所を安全と判断した一行を責めることはできないと言う。

ゴーム氏は、自分たちの説明は一般の人々には受け入れられないかもしれないと危惧している。「雪崩という説明は普通すぎるからです」。根深い懐疑論は、ディアトロフ峠事件の悲惨さとともに、今後も人々に語り継がれていくのかもしれない。

(文 ROBIN GEORGE ANDREWS、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年2月1日付]

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