石津謙介のエプロン、趣味極めた「服から入る」道服飾評論家 出石尚三

メンズファッションの「教祖」、石津謙介氏は料理自慢、食通でも知られた(石津事務所提供)
メンズファッションの「教祖」、石津謙介氏は料理自慢、食通でも知られた(石津事務所提供)
19世紀の英国からフランスへと広がったダンディズムとは、表面的なおしゃれとは異なる、洗練された身だしなみや教養、生活様式へのこだわりを表します。服飾評論家、出石尚三氏が、著名人の奥深いダンディズムについて考察します。



男の装いの「教祖」は飾らない正論の人

日本のメンズファッションの新時代を開き、熱烈なファンからは教祖と仰がれたヴァンヂャケット(VAN)創業者の石津謙介は、明治44年(1911年)10月20日、岡山で生まれました。今年は生誕110年にあたります。

岡山名物の郷土料理に「ばら寿司」があります。「祭り寿司」とも呼ばれるようで、関東でいうところの「ちらし寿司」に似ています。岡山で、このばら寿司が「さあ、どうぞ」と出されたとします。一見すると、それはほとんど酢飯の固まり。なかにはぎょっとする人もいるでしょう。

ところが、食べているうちに中からエビやタイ、ヒラメや山菜などが次から次へと現れてくるのです。まるで地面から宝石の山を掘り起こしているような楽しい眺めでワクワクしてきます。

酢飯の下に、あらかじめ様々な海の幸、山の幸を盛りだくさんに詰め込んであるのです。ちらし寿司を「せーのっ」とひっくり返して表裏にした寿司だと思えばいいでしょう。豪華な食材を、素朴な酢飯の下に隠して供するならわしです。

コック帽やエプロンでお客を楽しませるのも「演出」の一つ(石津事務所提供)

これを着物に例えて言いますと、木綿の表地に絹の裏を張るのに似ています。「贅(ぜい)」を「素」に隠す、とでも言いましょうか。絹の着物は気恥ずかしいので、わざと裏に張る。表は木綿でいいではないか、と。

石津謙介の心根と美学は、この出身地の郷土料理に似ています。「祭り寿司美学」とでも命名しましょうか。物言いや態度についても同じこと。言いたいことを飾らずにそのまま口にする。ちょっと悪ぶって見せたりもする。でも、中身は正論そのもの。いつも指摘は核心をとらえておりました。言葉を和らげたり、装ったりしないがゆえに、直言の体が強くなり、誤解を招くところがあったかもしれません。

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