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つらい痛み、見逃していた真因 治療前の診断こそ大事

愛知医科大学 学際的痛みセンター長 牛田享宏(5)

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版
 文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の人気コラム「『研究室』に行ってみた。」。今回は「慢性的な痛み」について愛知医科大学の牛田享宏・学際的痛みセンター長に聞くシリーズを転載します。長く続く体の痛みが、心理や社会ともつながっていることを知り、上手なつきあい方を身につけることは、次世代の「一般教養」になるかもしれません。

◇  ◇  ◇

それでは、牛田さんの「愛知医科大学・学際的痛みセンター」ではどんな治療を行ってきたのか、ちょっとだけ聞いておこう。すでに見てきた通り、本当に多彩な慢性疼痛患者が訪れるので、唯一無二の「これをやれば万事OK」な治療法というのはなかなか難しく、ケースバイケースで考えていかなければならないのだろうと想像する。でも、どんな手立てがあるのかくらいは知っておきたい。

「まず、僕たちの痛みセンターが依拠しているのは、前にも言ったと思いますが、『生物心理社会モデル(Bio-Psycho-Social Model)』です。痛みは、『生物学(医学的)的要因』『心理的要因』『社会的要因』が相互に作用して成り立っているわけですから。だから、集学的なアプローチといって、つまり、僕みたいな整形外科医や麻酔科医などの疼痛の専門医だけではなく、いろんな分野の専門家が、患者さんの情報を共有して、治療方針について協議するんです」

患者の治療方針を各方面の専門家たちが協議するというのは、ドラマなどでもよく見る「カンファレンス」ということだろう。ただ、その範囲が広い。かかわる可能性があるメンバーのリストを見せてもらったところ、整形外科医、麻酔科医、精神科医といった痛みにかかわるコアな専門家たちはもちろん、内科医、歯科医、専門看護師、理学療法士、臨床心理士も含まれていた。

「その上でも、治療の傾向が時とともに変わってきている部分はあります。よい薬もなかった時代には、いろんな薬、例えば抗うつ剤、抗てんかん剤なども駆使して、なんとか生活に戻してあげようというパターンでした。でも、今では、効きが良い薬も出てきて、一般の開業医の先生もそういったものを使えるようになって、よくなる人はそのレベルでよくなっていきますので、僕たちのところに来るのは、薬が効かなかったような人たちです。モルヒネなんかをむちゃくちゃ使われているけれどそれでも効かなくて困り果てている、というような人も来ます」

薬が効かなかった人たちが多く集まってくるので、減薬をまず検討することも多くなる。その上で、理学療法士がかかわるような運動療法や、臨床心理士がかかわるようなカウンセリングや、疼痛マネジメントの患者教育(「慢性疼痛教室」というものがあるそうだ)や、精神科的な認知行動療法も行うこともあるし、整形外科的な手術や小侵襲(身体的負担が少ない)の外科的治療を検討することもある。

「痛みを完全になくすことはできなくても、自分なりの主体的な目標を持って生きていけるようにするのが目標です。本当に、痛いのをゼロにするのは難しいんですが、それと付き合って行けるようにできれば、というのが大切なことだと思っています」

その上で、最近、牛田さんが医師として強調したいと思っているのは、治療の前のしっかりとした「診断・病態分析」だった。

「集学的な治療というものが注目されがちなんですが、そこに至る前の診断と病態の分析というのがすごく重要です。患者さんにとって、何がクリティカルなのかというのを見極めるといいますか」

牛田さんが言う「生物心理社会モデル」において、生物学(医学)的、心理的、社会的な要因が互いに影響し合うことを見ていくのはとても大事だ。そうすると、これまでの「生物医学モデル」にはなかった要素である、心理的、社会的な要因を強調することになりがちだし、このインタビューでもそうしてきた。

でも、だからといって、医師が最初に担当する医学的な診断が軽視されてはならない。当たり前のことだと思われるかもしれないが、実際問題として、今、牛田さんが診る患者さんの中には、ずっと前に見つけられているべきだった疾患がスルーされてしまっている場合がしばしばあるという。

「ひとつ簡単な例を言いますと──性格が悪くて、怠け者で、痛みがあるからって運動療法もやらないから太っていって、ますます体が固くなってきてるんだって言われてた患者さんがいました。それで、精神的な指導で認知行動療法をしましょう、みたいな話になっていたんですけど、念の為に詳しく調べたら、脳腫瘍だったんですよ。脳腫瘍になると性格変わるって言われますけど、そうじゃなくて、もともと性格悪くてやる気がないからって医師が思い込んだままなら、治療の方針も誤りますよね」

その上で、牛田さんはとても象徴的に思える、一人の患者さんについて詳しく語ってくれた。

「ひとつ、びっくりするような症例を紹介しますと、30代の女性で、全身のアロディニアで、歩行困難、座位困難。つまり、歩けない、座れないという人がいました。しかし、レントゲンも、血液検査も異常なしで、まず、線維筋痛症(せんいきんつうしょう)というまだ原因がよく分かっていない病気と診断されました。プレガバリンなど最近よく使われている薬も効果なく、じゃあ、特段、異常の所見がないのに強い身体症状が出る『身体表現性障害』だということになったそうです。でも、患者さんは、診断に納得できずにあちこちの病院に行くんですけど、どこにいっても異常なしと言われるわけです。その後、僕たちのところにこられて、『痛い、痛い』『こんなに痛いならもう死んだほうがまし』と大きな声で叫ぶんです」

ちなみに、この患者さんは歩行どころか座ることも難しいので、付き添う夫が介助していたという。診察の際にも、診察室のベッドに横になる時もすべて夫がサポートするほどのかいがいしさだったそうだ。

「すると、疾病利得があってこじらせるんじゃないかと疑いたくもなるし、家族に依存しているのをどうにかしないといけないし、とにかく動かさなければならないし、心理的な面から催眠療法みたいなものも試す価値があるだろうとか議論をしていたんですが、レントゲンやMRIや画像検査をもう一回念入りに行ったら、なんと脊椎が折れてるんですよ。そりゃあ、痛いでしょう。それで、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の検査をしたら、その指標も実年齢の平均から完全に逸脱していて、80歳の平均よりもさらに低いじゃないですか。これは病的骨折しか考えられないということでいろいろ調べて、最終的に内科で骨軟化症と診断がつきました。まあ、びっくりしましたけど、こういう『見逃し系』っていうのが相当来るんですね」

こういったことは、医師が気をつけなければならない落とし穴だ。慢性疼痛の場合、心理的社会的な要因が大きいとはいえ、かといって生物学的(医学的)な「なにか」が潜んでいる可能性は常にある。それなのに、「疾病利得があるかどうか」といったことにばかり気を取られていると、大切なことを見逃してしまうことがありうる。

なお、この患者さんの痛みは、「骨軟化症」という診断がついた途端に、劇的に改善した。

「本当に骨軟化症が分かった瞬間にアロディニアは改善しました。もう、びっくりするぐらい速やかに。もう患者さんが死のうか生きようかとか言うとったのが、原因が分かって、骨軟化症で間違いないよって言ったら、じゃあ、なんとかがんばろうとなって、腰の骨はつぶれたままですけど、今はもう普通に座れますから」

牛田さんが言っていた、「小魚の群れがぱっと反応して動くようなイメージ」を想起した。この場合、脊椎の骨折が分かったからといって、その骨折が急に治癒するわけではない。にもかかわらず、心身の色々なモードが一気に切り替わったのではないだろうか。本当に慢性疼痛というのは奥深い。

=文 川端裕人、写真 内海裕之

(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2020年1月に公開された記事を転載)

牛田享宏(うしだ たかひろ)
1966年、香川県生まれ。愛知医科大学医学部教授、同大学学際的痛みセンター長および運動療育センター長を兼任。医学博士。1991年、高知医科大学(現高知大学医学部)を卒業後、神経障害性疼痛モデルを学ぶため1995年に渡米。テキサス大学医学部 客員研究員、ノースウエスタン大学 客員研究員、同年高知大学整形外科講師を経て、2007年、愛知医科大学教授に就任。慢性の痛みに対する集学的な治療・研究に取り組み、厚生労働省の研究班が2018年に作成した『慢性疼痛治療ガイドライン』では研究代表者を務めた。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、肺炎を起こす謎の感染症に立ち向かうフィールド疫学者の活躍を描いた『エピデミック』(BOOK☆WALKER)、夏休みに少年たちが川を舞台に冒険を繰り広げる『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその"サイドB"としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、「マイクロプラスチック汚染」「雲の科学」「サメの生態」などの研究室訪問を加筆修正した『科学の最前線を切りひらく!』(ちくまプリマー新書)
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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