関西の「しゃべり」文化に魅了された

緒方氏は兵庫県出身。「話が面白い人がとにかくモテる」と実感しながら育った。

緒方氏は関西の「しゃべり文化」への思い入れが深い

「関西の人って、日常会話でも『オチがあるかどうか』をよく気にするじゃないですか。しゃべること、そして自分のしゃべりによって周りの人に喜んでもらうことに対する異常なまでの情熱を持っている。そういう文化になじみのない人からすれば、クレージーだと思われるのかもしれない。でも僕にとって、しゃべりの面白い人はずっと尊敬の対象だったんですよ」

言葉選びのセンスが独特な人、頭の回転がいい人、声が心地よく響く人。一口に「面白い」といっても、いろいろな種類があった。

「内容やオチの有無だけではなく、話す速度やリズム、抑揚、声質など、いろいろな要素が重なり合って、その人らしさが表れる。高校時代は流行の音楽を聞くために毎晩ラジオにかじりついていたものですが、すごく好きなパーソナリティがいて。その『声』に会いたいという感覚を持っていたと思います」

多様な「しゃべり」の魅力に触れて育った。だからこそ、その価値が十分に認識されず、ビジネスにもなっていない状況に疑問を抱いた。

「ウィキペディアで『エンターテインメント』っていう言葉を引くとね、『お笑い』の項目はあるけれど、『しゃべり』はないんですよ」

計算され、仕掛けられたプロの笑いにとどまらない、その人らしい「しゃべり」の価値を、世の中にもっと知らしめたい。起業の原点には、そんな思いがある。

だが、30代半ばに差しかかるまで、自ら事業を起こすことになるとは夢にも思っていなかった。自分がリーダーになって人を率いていくより、頑張っている誰かの手助けをしてもり立てることのほうに喜びを感じる性分だったからだ。

公認会計士の資格を取り、新卒で新日本監査法人(現EY新日本監査法人)に就職したのは、経営を裏方で支えつつ、様々なビジネスの現場を経験したいと感じたからだ。

だが、飛び込んでみると、現実は想像していたものとは少し違っていた。誰かの役に立てる喜びを感じる瞬間もあった一方で、「会計のルールに照らして問題がないかどうか」をひたすら確認する日々の業務に、やがて物足りなさを感じるようになった。

「世の中には、大きく分けて2種類の仕事があると思う。一つの決まった答えに最短で到達することを求められる仕事と、正解のないところに自分らしい答えを見つけにいく仕事。会計士は前者でした。こまかい作業をコツコツ積み重ねる。『君はどう思うか』なんて聞かれない代わりに、ミスは厳禁。どちらがいいとか悪いとかいう話ではないです。僕はあまり得意ではなかったので、これをやり続けることが『働くこと』なのだとしたら、面白くないなと考え始めました。このままでいいのだろうかと悩むようになりました」

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ボストンでの「ゼロイチ」経験
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