投資は「違う値動き」を組み合わせる 株式+債券+…
未来の私を変える投資レッスン(5)
田丸磨音(たまる・まね)
メーカー勤務5年目の27歳。独身。藤士のレッスンで資産運用の大切さを知り、証券口座を開設した投資初心者。趣味はヨガ。
里中藤士(さとなか・とうし)
証券アナリスト、ファイナンシャルプランナー。35歳。最近、男性・女性ともに若い世代から資産運用に関する相談が増えている。趣味は家庭菜園。
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藤士:前回は証券口座の開設と、運用対象の組み合わせ、つまりアセットアロケーションの大切さについてお伝えしましたね。証券口座はできましたか?
磨音:つみたてNISA(少額投資非課税制度)の口座も含めて開設できました! 早く投資したくてうずうずします。でも、投信をあれこれ選ぶ前にまず、アセットアロケーションを決めるのが先、でしたよね。
藤士:そのとおりです! 何をどれくらい組み合わせるかは、主に投資の目的に応じた運用期間や、投資する人自身の「リスク許容度」によります。
磨音:「リスク許容度」っていう言葉、なんとなくイメージはつきますが……。
藤士:わかりやすくいうと、損失に対してどれだけ耐えられるかです。これには金額的なものだけでなく、精神的なものも含まれます。例えば損をして眠れなかったり仕事が手につかなくなったりするようなら、リスク許容度に合っていない投資といえます。
磨音:資産の組み合わせ方に何かコツはありますか?
藤士:あります。コツは違う値動きをする資産に分散することです。値上がりするものと値下がりするものを組み合わせればお互いに値動きを打ち消しあって値動きが安定、つまりリスクを減らすことが期待できるのです。
磨音:違う値動きをするものって、いったい何があるんですか?
藤士:一般的には株式と債券がよくいわれています。さらに、対象の国や地域が変わることでも値動きは変わります。値動きの違いを実際に見てみましょう。図1は過去20年で最も値が動いた時期の2007年を100としています。まずは、グラフの各資産の動きのラインを目で追ってみてください。
磨音:株式は、ここまで大きな値動きなんですね! 国内株式も外国株式も、09年あたりには当初の半分を大きく下回るまで下がっています。それだけでなく、15年ごろや20年にも大きく……直近の高値に比べ30%くらい下がってますね。
藤士:だからこそ、短期間の運用は避けたいところです。例えば、5年程度の運用期間では株式はできるだけ組み込まないほうがよく、10年程度でもその人のリスク許容度次第では避けたほうがよい場合もあります。
磨音:確かに運用期間が短いと、下がったところで終わってしまうかもしれませんし、どちらに転ぶかのギャンブルみたいになりそうですからね。
藤士:では、債券の値動きはどうでしょう?
磨音:国内債券は株式に比べると値動きはないも同然と言ったら言い過ぎでしょうか。でも、外国債券の値動きは、株式と国内債券の中間という感じですかね。ただ、例えば07年から08年は株式と違う動きですが、その後は同じ方向に上がったり下がったりしている期間が多いですかね?
藤士:そのように外国債券が外国株式と同じ方向に動いているのは主に為替の影響です。
磨音:為替って、円高、円安っていうアレですね。海外旅行が好きだから、為替は結構チェックしています。円高だと、現地でのお買い物に気合が入ります。
藤士:ただ、投資信託の価格は日々変動していますので、購入後も為替の影響を受けて、円安になれば値上がりする半面、円高になれば値下がりする傾向があります。
磨音:外国のものを運用対象とするなら、為替も意識しないとですね。
藤士:では、実際に「組み合わせた効果」も見ていきましょう。図2では、国内株式だけと、それに加え、それぞれ国内債券と外国株式を50%ずつ組み合わせた資産の値動きを比較してみました。磨音さん、3つの値動きで何か気づきませんか?
磨音:組み合わせることで、国内株式だけのときよりも値下がりが抑えられていますね! ただ、外国株式との組み合わせだと、あまり代わり映えしないみたいですね。
藤士:国内株式と外国株式の組み合わせは違った動きの組み合わせではないため、「分散」効果が薄くなっています。国内債券との組み合わせは値下がりが抑えられた半面、国内株式だけよりもリターンも抑えられていることにはなります。
磨音:じゃあ、色々な種類の投信をたくさん組み合わせるほどよいということですか?
藤士:いえ、そうとも言えないんです。手当たり次第分散していると、一見、投信の種類としては分散されているように見えても、実際には全然分散が効いていないことにもなりかねません。そのため、自分が中身を把握できる程度に抑えた方がよいでしょう。
磨音:多ければいいってものでもないんですね。今回のレッスンで老後資金が目的のアセットアロケーションをイメージしてみました。初めての投資なので少しドキドキしますが、リターンも得たいので半分を株式にして毎月コツコツ投資していこうかなと思います。
藤士:アセットアロケーションが見えてきましたので、次回はいよいよ投信選びのポイントをお伝えしていきますね。
藤士のワンポイントアドバイス
外国株式や外国債券を運用対象とする投信は、単に「外国」というだけでなく、投資対象がさらに絞り込まれていることが名称からわかるものもあります。外国株式の場合は、以下のような分類がよく見られます。なお、投信を運用する際に連動を目指したり、投資成果を比較したりするために用いられるものが「指数」です。国内株式でいうところの日経平均株価や東証株価指数です。
【先進国株式】
よく使われる指数はMSCIコクサイ・インデックスで、構成比は米国が68%と3分の2超を占めています。「外国株式」という名称の投信も基本的にこのタイプです。
【新興国株式】
よく使われる指数はMSCIエマージング・マーケット・インデックスで、構成比の上位はケイマン諸島(多くが中国企業)24%、韓国13%、台湾11%、中国10%、インド9%となっています。
【全世界株式】
よく使われる指数はMSCI オールカントリー・ワールド・インデックス(除く日本)で、上記2つを先進国86%と新興国14%の割合で組み合わせたものです。
※構成比は各指数に連動を目指す投信の20年12月末時点の月次報告書をもとに小数点以下を四捨五入しています。
「老後のためにも、若いときから投資・資産運用を」とよくいわれますが、初めての人にとってはわからないことだらけ。様々な疑問について会話形式でやさしく解説します。
中里邦宏
ファイナンシャルプランナー(CFP)、マネーディアセオリー株式会社取締役副社長。上場メーカーで設計担当後2004年にFP事務所を開業、16年に法人設立。顧客が納得するまでシミュレーションを繰り返すライフプラン相談を中心に、資産運用教育、ライフプランツールのプランニング、ロジック提供なども手がける。日本証券アナリスト協会検定会員、1級FP技能士、DCプランナー1級。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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