日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/2/15

やっぱり飼い主が一番

イヌ自身が慣れていない場所では、イヌは人と接した時間の80%近くを飼い主と一緒に過ごしていた。ところが、よく慣れている場所では、約70%もの時間を見知らぬ他人のほうに費やしていた。この研究は、2017年に学術誌「Journal of the Experimental Analysis of Behavior」に発表されている。

「飼い主の自分がいつも一番なのではない」と知って、がっかりしただろうか。「でも、悲しむことはありませんよ」と語るのは論文の筆頭著者で、コンパニオンアニマルの行動と福祉が専門のエリカ・フューアーバッカー氏だ。米バージニア工科大学の助教のフューアーバッカー氏は、「慣れていない状況に置かれると、イヌはストレスを感じます。そんな時は、やはり飼い主が一番なんです」と話す。

この研究のように「状況や環境がイヌの行動や好み、視点に影響を与えるという研究は増えています」と、米ニューヨーク市立大学大学院センターの博士号候補生ジュリー・ヘクト氏はメールでの取材に答えた。

「初めての場所を訪れたときや、不快な思いをすると、イヌは飼い主を求めがちです。逆に安心できる場所では、知らない人と関わることが多くなります。イヌと一緒に暮らしている人は、同じようなことを実際に経験しているのではないでしょうか」

保護犬は新しい飼い主にすぐ慣れる?

慣れている場所で、しかも飼い主がすぐ近くにいれば、イヌは「安心して知らない人と関わることができます」とフューアーバッカー氏も同意する。

「その点を具体的に実験したわけではありませんが、そう考えていいでしょう」。過去の研究からもわかるように「イヌが飼い主から離れて周囲の環境を探ってみようという気持ちになれるのです」(フューアーバッカー氏)

ほかにも、研究では、保護されたイヌと飼いイヌが、それぞれ2人の見知らぬ他人と同時に引き合わされたときにどんな態度を見せるかという実験も行った。すると全てのケースで、イヌは2人のうち一方に飼い主に向けるのと同じ程度の好意を示し、なでてもらいたがるという結果になった。ただし、理由はまだ専門家にもわかっていない。

過去の同様の実験では、保護犬を2人の他人と10分間関わらせ、これを3回繰り返すと、どちらか1人だけに好意を示すようになったと報告されている。今回の実験では、3回繰り返さなくても、1回目で既に態度を変化させていた。

過去に人に飼われていた保護犬を引き取ろうと考えている人には朗報と言えそうだ。家を失うというのはイヌにとってもつらい経験ではあるが、新しい飼い主にすぐに慣れてくれる可能性が高い。

「飼い主との別れや保護シェルターでの生活は、イヌに大変な精神的負担をかけます。けれど、新しい飼い主に引き取られてもまだ前の飼い主を恋しがるということはないと思います」と、フューアーバッカー氏は言う。

「イヌを引き取ったら、そのイヌにとってあなたが一番の人間です」

(文 LINDA LOMBARDI、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年1月21日付]