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流行乗らない新型レヴォーグ 栄冠は生真面目さに輝く

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NIKKEI STYLE

2020年に最も印象に残ったクルマはSUBARU(スバル)のレヴォーグだった、と小沢コージ氏。12月に発表された「2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー」でも、ホンダのフィットやトヨタのヤリスといった強豪を押しのけ、見事栄冠に輝いた。SUV(多目的スポーツ車)全盛の今、一見クラシックなワゴンスタイルをとるレヴォーグのどこがすごいのか。小沢コージ氏が解説する。

時流に乗らず、ステーションワゴンで勝負

20年に印象に残った新車を振り返ってみると、ポルシェ初の本格ピュアEV(電気自動車)「タイカン」やスーパー実燃費コンパクトのトヨタ「ヤリス」などがあるが、一番はスバルの新型レヴォーグかもしれない。確かに「2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー」も取った人気モデルだが、その構成を見るとあまり時流に乗っているとはいえない、アウトオブトレンドなクルマにも見える。

まずステーションワゴンというカテゴリーが結構なオールドファッションだ。日本でステーションワゴンが流行したのは初代スバル・レガシィ発表直後の1990年代で、いまや世界的トレンドは背高ノッポのSUVに移っている。もちろんSUVより空気抵抗が少なく、セダンよりラゲッジスペースがかせげるステーションワゴンは今でも存在価値があると思うが、はやりとは言い難い。

同時に、これも昔ほど注目されてはいないが、燃費スペックもさほど良くない。スバル肝いりの完全新作エンジン、直噴1.8リットルのフラット4ターボを搭載するものの、車重が1.5トン台ということもあってかWLTCモードで最良13.7km/リッター。サイズは違うがヤリスハイブリッドの半分にも届かないし、何より、この時代になってもハイブリッド仕様が用意されていない。見ようによっては、イマドキ洋楽やらヒップホップが当たり前になっている中、いまだにフォークソングで勝負しているような感じすらある。

クルマとしての基本性能が秀逸

ではレヴォーグのどこがすごいのか。それは、クルマの基本性能と先進安全性能の高さである。具体的には、ボディー剛性を上げ、全体の質感やハンドリング性能を高めた部分と、長年鍛え上げた新世代「アイサイト」や、その上に来る「アイサイトX」という先進安全技術だ。その良さは実際に乗ってみれば、すぐに分かる。

新型レヴォーグは、国内でギリギリ使いやすい大きさといえるミドルサイズワゴンだ。全長4755×全幅1795×全高1500ミリメートル。全長は短いとはいえないが、1.8メートルを切った全幅は狭い道や駐車場などで扱いやすさを感じる。

注目は内外装で、スバル車としては(失礼)驚くほど質感が高いのだ。特にインテリアは顕著で、随所に本革風素材や樹脂パネルが使われ、上級グレードの「STI Sport」には座り心地のよい本革シートが標準装備されている。

肝心の「アイサイト」と「アイサイトX」はどうか。両者の違いを説明すると、アイサイトは衝突被害軽減ブレーキやレーンキープといった基本的な先進安全技術で、一般道から高速道路まで使えるもの。今回新たにステレオカメラの視野を広げるとともに、前後4つのレーダーを追加し、交差点での右左折時や、見通しの悪い交差点での出合い頭など、対応シーンを増やした。

かたやアイサイトXは、3D高精度地図や位置情報を利用してカーブや料金所の手前で自動減速したり、ウインカーを出すと車線変更のハンドル操作をサポートしたりと、高速道路や自動車専用道路でサポートしてくれる追加機能だ。渋滞時、一定の条件を満たすことでステアリングから手を離せる「渋滞時ハンズオフアシスト」も使用できる。

最先端をいく圧巻の先進安全機能

特にインパクトが強いのは、渋滞時のハンズオフ機能だろう。時速50キロメートル以下でアイサイトXが対応している高速道路上なら、走行中にステアリングから両手が離せるのだ。もちろん自動運転ではないのでドライバーが前方を監視する義務があるし、よそ見をするとクルマがそれを検知して警告が出る。それでも走行速度から進路まですべてクルマ任せにできるのはすごい。

この手の機能はレヴォーグが初めてではなく、BMWの一部モデルや日産のスカイラインにも搭載されているが、事実上500万円弱から、という高価格でしか手に入らなかった。しかし新型レヴォーグの場合、ベーシックグレードでアイサイトX付きの「GT EX」が車両本体価格約350万円で手に入る。これは競合に対し150万円前後安い価格だ。

アイサイトXではない、素のアイサイトも性能が向上している。特に高速道路上でステアリングに手を添えているだけで愚直にレーン内をキープしてくれるツーリングアシストが優秀で、実はこれが乗っていて一番良さを感じたポイントだった。

レヴォーグはすべてのグレードに新世代アイサイトまたはアイサイトXを標準装備している。最新の先進安全機能をリーズナブルに提供していることが、高く評価されたポイントのひとつだろう。

さらに言うと、そもそもスバルが燃費的に不利なフラット4=水平対向エンジンを使い続ける理由は、安全性の高さにほかならない。この型式は重心が低く、左右の重量バランスが優れているため、安全性の基礎となる操縦安定性や緊急回避性能に優れる。ついでに衝突安全面で有利な点もある。スバルはある意味、燃費より安全を優先したクルマ造りを長年続けており、その延長線上に新世代アイサイトやアイサイトXが存在しているとも言えるのだ。

トレンドにさほど乗っていないレヴォーグが評価された理由。それは一見アウトオブトレンドなフォークシンガーが、ジャンルを超えた歌の上手さと、長年のたゆまぬ奉仕活動が評価されたようなもの。EVが持てはやされる時代にあって、なんとも生真面目な、日本らしいクルマではないだろうか。

小沢コージ
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は「ベストカー」「時計Begin」「MonoMax」「夕刊フジ」「週刊プレイボーイ」など。主な著書に「クルマ界のすごい12人」(新潮新書)「車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本」(宝島社)。愛車はロールス・ロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。

(編集協力 出雲井亨)

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