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老化を遅らせ、元気続く 最新研究が示す抗老化物質

今井眞一郎・ワシントン大学教授に聞く(上)

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NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ)

最先端の研究により、老化を遅らせ、高齢になっても元気に人生を楽しんで天寿を全うする「ピンピンコロリ」が実現できる時代が近づきつつある。米国では国家予算をかけて抗老化研究が行われており、その成果の一つとして研究者の間で注目を集めているのが、「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」という物質だ。このNMNの抗老化効果などについて研究する、抗老化研究の第一人者、米国ワシントン大学医学部発生生物学部門・医学部門の今井眞一郎教授に、抗老化研究の最前線や今すぐ実践できる老化制御法についてインタビューした。

◇   ◇   ◇

抗老化成分として研究者の間で注目されているNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)。これは、ビタミンB3からつくられ、ブロッコリーやアボカド、トマトなどにも微量に含まれる食品成分だ。NMNカプセルも販売され、米国や中国、日本の富裕層を中心に、老化を遅らせ、実年齢よりも身体機能を若く保つことが期待できるサプリメントとして人気を呼んでいるという。

NMNブームに火がついたのは、米国ワシントン大学の今井眞一郎教授(神戸医療産業都市推進機構先端医療研究センター・老化機構研究部特任部長を兼任)の研究を中心に、その抗老化効果が明らかになってきたためだ。

今井教授は、酵母から人間まで、体内にあるサーチュインという酵素が、活性化することで老化を遅らせたり寿命を延ばしたりする老化・寿命制御因子であることを発見したことで世界的に有名な抗老化研究の第一人者だ。2020年12月初旬、日本に一時帰国中の今井教授に、NMNの抗老化効果などについて聞いた。

老化を遅らせ認知機能や免疫機能の低下を抑える効果も

――今、米国、そして日本でも、NMNという成分が、「寿命を延ばすかもしれない。特に、健康寿命の延伸の効果があるかもしれない」ということで、人気になりつつあります。その発端をつくったのが、今井先生の数々の研究です。今井先生のこれまでの研究で分かってきた、NMNの抗老化効果について教えてください。

今井 私たちワシントン大学のグループが、生後5カ月のマウスが17カ月齢になるまで1年間NMNを飲ませた研究では、さまざまな抗老化効果が見られました。5カ月齢というのは人間でいえば20代くらい、17カ月齢は60代くらいです。例えば、NMNを飲ませたマウスは、飲んでいないマウスよりたくさん食べるようになったにもかかわらず、体の代謝が上がって中年太りが抑えられました。ほかにも、骨格筋、肝臓、脂肪といったさまざまな場所で加齢に伴って起こる遺伝子の変化が抑えられ、身体活動量が上がり、血糖値を下げるインスリンの感受性、光を感じる目の網膜の機能が保たれ、免疫細胞の数が増えるなど、NMNには非常に多岐にわたる抗老化作用があることが分かっています。

2011年に発表した、糖尿病のマウスにNMNを与えた研究では、血糖値がほぼ正常になり、症状を劇的に改善させる効果が見られました。

NMNの主な老化抑制効果

――日本でも認知症患者の増加が問題になっています。NMNとアルツハイマー病との関係を調べた研究もあるようですね。

今井 他の研究機関でアルツハイマー病のモデルマウスにNMNを飲ませた研究では、記憶力や認知機能が回復し、アルツハイマー病の原因となる脳の海馬の細胞死が抑えられたと報告されています。NMNは血管の弾性を若い頃と同じように保つといった働きがあるなど、老化に伴う組織や臓器の機能低下、それから、老化に伴って起こる病気を改善させる効果も、世界各国の非常に多くの研究機関の論文で証明されています。

NMNを飲むとすぐにNADに変換されサーチュインが活性化

――なぜ、NMNには老化に伴う組織や臓器の機能低下を抑える作用があるのでしょうか。そのメカニズムを教えてください。

今井 NMNを飲むと、すぐにNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)という、私たちが生きていくうえで欠かせない補酵素に変換され、サーチュインの働きが活性化されるからです。サーチュインは老化や寿命をコントロールする酵素で、その遺伝子は長寿遺伝子とも呼ばれます。哺乳類にはSIRT1(サーティワン)から7まで7種類のサーチュインがありますが、特に重要なのがサーティワンです。サーティワンは血糖値を下げるインスリンの分泌を促進し、糖や脂肪の代謝を良くしたり、神経細胞を守り記憶や行動を制御するなど、老化や寿命のコントロールに非常に重要な役割を果たしています。

その働きを解明するために、マウスの実験で、脳の司令塔である視床下部でサーティワンの機能を高めたところ、老化によって増える症状や病気の発症時期が遅くなり、メスでは16.4%、オスでは9.1%健康寿命が延びました。面白いことに、人間の60代に相当する17~18カ月齢のマウスの脳の視床下部でサーティワンを高めると、3~4カ月齢(人間の20代相当)の若いマウス並みに元気に動き回るようになり、体温が上がり代謝も高まったのです。

脳でサーチュインの機能を高めると健康寿命が延びた

そして、こういったサーティワンの働きすべてに必要なのがNADです。組織中のNAD量は加齢と共に減少しますが、NMNを飲むとNADの量が増えてサーティワンの働きが活性化します。サーティワンが活性化すると、視床下部がコントロールセンターとなっていろいろな臓器や骨格筋、脂肪組織の機能が回復し、身体活動量や代謝が上がります。つまり、加齢に伴って減少するNADを増やし、サーティワンを活性化させることが老化を遅らせるカギとなるのです。

NMNが老化を制御する仕組み

――人間にも、マウスと同じような効果が期待できるのでしょうか。

今井 ワシントン大学の私の研究室では、長年の同僚であるサミュエル・クライン教授(老年医学・栄養学)の研究室と共同で、糖尿病予備群で肥満かつ閉経後の女性(55~75歳)25人を対象にした第1次臨床試験を実施しました。被験者を2つのグループに分け、NMNかプラセボ(偽薬)を1日250mg 10週間投与し、体の代謝、心臓や血管の状態に関係のある検査数値がどのように変化したかを重点的に調べる高度な解析を行いました。人間の場合は、マウスと違って寿命が長いので、心臓や血管の状態を見る数値が、抗老化効果を見る指標になります。すべての解析は終わっており、現在、論文審査中です。

最初の臨床試験の結果を受けて、第2次の臨床試験も2020年10月からスタートしています。第2次の臨床試験には米国防省の予算がついています。今回は男性も対象にして人数を増やし、糖尿病予備群で肥満の男女56人を対象に被験者を募集中です。

NMNの効果が期待できるのは40~50代以降

――最初の臨床試験で、閉経後の女性を対象にしたのはどうしてですか。

今井 2011年に報告した糖尿病モデルマウスにNMNを投与した研究結果で、マウスではメスのほうがNMN投与による効果が大きいと分かっていたからです。ヒトとマウスが同じかは分かりませんが、肥満で糖尿病予備群の閉経後の女性というように、マウスで効果が見られたのと近い条件を設定しました。

マウスに対する効果になぜ性差があるのかは、まだ分かっていません。一つだけ分かっているのは、私たちが体の中でNADを合成するためにはNAMPT(ニコチンアミド・ホスホリボシルトランスフェラーゼ)という酵素が必要で、そのうち血液の中を巡っているNAMPTをeNAMPT(細胞外に分泌されるNAMPT)と言いますが、その量は、マウスのメスではオスの2~3倍多いということです。つまり、メスは何らかの理由で大量のeNAMPTとNADを必要としていて、加齢に伴ってそれらが下がったときに、NMNを補充してNADを若いときに近い水準に戻すと、劇的な効果をもたらすのではないかと推測しています。ヒトに対する効果にも性差があるかは、男性も対象にしている第2次の臨床試験の結果を分析する過程で分かってくると思います。

――NMNを補充してNADを増やすのは、老眼になった、白髪が増えた、太りやすくなったといった老化現象を自覚してからでも間に合うということですか。

今井 マウスの実験から言えることは、人間の20~30代に相当する若い健康体にNMNを飲ませても特に大きな変化はなく、40~50代に相当する中高年になってから非投与群との差が出始めたということです。老化現象を自覚してからでも間に合いますし、ヒトの70代くらいに相当するマウスにNMNを飲ませても身体活動が高まるなどの効果が見られていますので、高齢者が飲んでも老化制御効果が期待できるのではないかと考えています。

――NMNのサプリメントはかなり高価です。NMNはビタミンB3(ナイアシン)からつくられているということですが、安価なナイアシンサプリメントで代用することはできますか。

今井 何か病気があってエネルギー産生に不可欠なNADが減っていると考えられる場合には、ナイアシンだけでも効果がある可能性があり、そのような臨床研究の結果も既に発表されています。ただ、ナイアシンの大量摂取は、肝臓障害を起こしたり、膵臓から分泌されるインスリンの効きが悪くなったりする副作用が出るので要注意です。

――NADを合成するビタミンB3由来のサプリメントとして、米国では「NR(ニコチンアミドリボシド)」も人気のようですが、NRとNMNではどちらがよいのでしょうか。

今井 NRを用いた抗老化研究も世界中で行われており、マウスでは代謝や認知機能の改善などさまざまな抗老化効果が報告されています。ただ、残念ながら、これまで10近い臨床試験の結果が公表されていますが、ヒトに対する抗老化効果が得られたとの報告は皆無です。NRは口から摂るとほぼ100%腸内細菌で分解されてしまうので、サーチュインを活性化するところまで至らないのではないでしょうか。

NMNも腸内細菌で分解されるのですが、その前に、ものすごい速さで血中に取り込まれてNADに変換されることが分かっています。私たちの体には、NMNを速やかに体に取り込むトランスポーター(運び屋)となるタンパク質が備わっていて、口からNMNが入ると速やかに血中に取り込んでNADに変換するのです。

私たち以外にも、大阪大学大学院医学系研究科の樂木宏実先生と中神啓徳先生たちの研究グループなど、すでにNMNの臨床試験の結果を解析中あるいは実施中の研究グループがいくつかあります。その結果が論文報告されれば、NRとNMNの差がはっきりしてくると思います。

老化を遅らせ「ピンピンコロリ」が実現できる時代に

――そもそも老化とは、NADが減少することなのですか。

今井 少し言葉が専門的になりますが、老化は生物の持つロバストネス(頑強性)の減少と崩壊です。ロバストネスは工学用語で、あるシステムの状態を一定のところに保つ能力のことを言います。加齢に伴って組織や臓器の状態が徐々に変化して衰えていくわけですが、そのシステムが弱まり保てなくなるのが老化です。人間を含め、マウス、線虫など生物の老化の引き金になるものが、NADの減少だということが、世界中の抗老化研究者の共通認識になりつつあります。

――NMNでNADを増やせば寿命が延び、若返りも期待できるのでしょうか。

今井 NMNで最大寿命が延びるかどうかはマウスによる研究でもまだ分かっていませんが、少なくとも健康寿命は延ばせるのではないかと考えています。そもそも私が抗老化研究をしているのは、多くの人が健康寿命を延ばして、「プロダクティブ・エイジング」を実現するためです。プロダクティブ・エイジングは、ロバート・N・バトラー博士が言い出した造語で、死ぬ直前まで健康を保って人生を楽しみ、生産性を維持し社会に貢献し続けながら年を重ねること、つまり、日本語で簡単に言えばいわゆる「ピンピンコロリ」を実現することです。

現時点では、老化をなくしたり若返りを図ったりといった、不老不死の実現はできません。それでも、最先端の抗老化研究の成果を社会実装することで、老化を遅らせ、実年齢よりも身体機能を若く保つなど、プロダクティブ・エイジングの実現が可能なところまで来ています。加齢によって減少したNADを増やすことがカギになることは間違いありません。

後編では、NADを高めて老化を遅らせるためにはどうすればいいのか、今すぐ実践できる老化制御法について、伺っていく。

(文 福島安紀=医療ライター、図版作成 増田真一)

[日経Gooday2021年1月14日付記事を再構成]

今井眞一郎さん
ワシントン大学医学部発生生物学部門・医学部門教授/神戸医療産業都市推進機構先端医療研究センター・老化機構研究部特任部長。1964年、東京生まれ。89年、慶應義塾大学医学部を卒業後、同大大学院で細胞の老化をテーマに研究。97年に渡米し、マサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガランテ教授のもとで、老化と寿命のメカニズムの研究を続ける。2000年にサーチュインという全く新しい酵素の働きが酵母の老化・寿命を制御していることを発見。01年よりワシントン大学(米国ミズーリ州・セントルイス)助教授、08年より准教授(テニュア)、13年より現職。専門は、哺乳類の老化・寿命の制御のメカニズムの解明および科学的基盤に基づいた抗老化方法論の確立。世界的に注目される抗老化研究の第一人者。

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