AIがヒット曲の予測に挑む 香水と天城越えには共通点連載 エンターテック(7)

日経エンタテインメント!

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エンターテインメントとテクノロジーを組み合わせることでどんなものが生まれてくるのか。MTVジャパンやユニバーサルミュージックなどで、次世代の“エンタテインメント×テクノロジー”の新規事業開発を担当してきた鈴木貴歩氏が最新のエンターテインメントを探っていきます。今回、取り上げるのは「ヒットを予測するAI」です。

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2015年から脳活動データをとりため、AI技術を用いて、脳活動予測モデルを開発

様々な分野で「AI(人工知能)」が活用されている昨今。NTTデータが開発して話題となっているのが、特定の映像や音声を感知したときに、人間の脳がどんな活動をするかを推定する「NeuroAI(ニューロエーアイ)」です。

その技術を2020年は、音楽にも適用。ヒット曲を聴いたときの推定脳活動を解析しました。また音楽チャート「Billboard JAPAN HOT 100」と組み合わせることで、未来のヒット予測にも挑んでいます。研究を主導する、NTTデータ経営研究所の茨木拓也氏に話を伺いました。

――なぜ今回のような研究を行おうと考えたのですか?

茨木拓也 NTTデータ経営研究所情報未来イノベーション本部ニューロイノベーションユニット/アソシエイトパートナー。神経科学を基軸とした医療・製造業、広告、エンタテインメントなど多岐にわたる分野の新規事業の創生や研究開発に多数従事

音楽と脳科学の関係性は、この10年で大きく進歩しました。例えば、音楽を聴いて気持ちいいと感じるときは、脳のどの部分が活発になっているか、楽曲にどんな特徴があれば気持ち良く感じるかが分かってきました。例えば、“サプライズ性の高いコード進行”は脳が気持ちよく感じるといったようなことです。

そこで、「NeuroAI」と、セールス、ストリーミング、SNSなど8種類の項目からなる「Billboard JAPAN HOT 100」を組み合わせれば、今どんな曲が人気かを、脳の情報を介して定量的に評価できるのではないかと。19年9月から、チャート提供会社の阪神コンテンツリンクさんと共同研究をスタート。16年12月から20年5月までにチャートインした2185曲(※)を対象に、推定脳活動を分析した結果、この9月に大きく2つの研究成果が生まれました。

(※)期間内に、CDセールス、ダウンロード、ストリーミング、ラジオ再生、動画再生、ルックアップ(PCへのCD読み取り数)、ツイート、カラオケの8種類の指標のうち、1指標でも100位以内に入った楽曲

――その1つ目が、「楽曲が持っている特徴を、脳活動によって分析すること」だそうですね。

瑛人の『香水』といったヒット曲などを、1000次元からなる「NeuroAI」の脳空間上にマッピングして類似曲を探しました。すると、『香水』は、石川さゆり『天城越え』やHY『366日』、他にも、King Gnu『白日』は、米津玄師『orion』やAvicii『Waiting For Love』などに近いことが分かったんです。

あくまでもこれは、聴いたときの脳活動の近さなので、サウンド的にどう似ているか説明できるものではありません。ただ逆に、言語化できない指標であるところに大きな可能性を秘めていると考えていて。例えば、現在の音楽ストリーミングサービスのプレイリストやレコメンドは、ジャンルやユーザーの聴取履歴をベースに作られますが、「NeuroAI」では全く違うアルゴリズムでの選曲が可能となる。新たな楽曲との出合いに一役買えると考えています。

「NeuroAI」により作成された楽曲リストの例(出所:NTTデータ)

急上昇の事前予測に成功

もう1つが、「ヒットソングの特徴を分析し、未来のヒットを予測すること」。脳情報に加え、歌詞、コード、音質の特徴といった音楽的要素も数値化し特徴量化した楽曲データと、16年12月から20年3月までの「Billboard JAPAN HOT 100」を、「NeuroAI」に読み込ませ、各週のヒットの方程式を作成。その方程式が、時系列でどう変化するかを学習させました。雲の流れから天気予報をするイメージで、ヒット予測を算出したんです。

特に興味深い結果が出たのが、急に聴かれるようになった曲を指標化した「急上昇チャート」をターゲットにした予測です。例えばYOASOBIの『夜に駆ける』が実際のチャートに入る3か月前にその予兆を捉えることができました。さらに4月以降を予測した結果、YOASOBIだけでなく、ヨルシカ、Rin音、Novelbrightといった、最近飛躍したアーティストの楽曲の順位上昇も、予測に成功しました。

――レコード会社からは、「新人発掘の際にぜひ活用したい」との声が上がっているそうですね。

「NeuroAI」に、新人アーティストの楽曲を解析させ、今後のヒット予測との類似性を評価することで、ヒットの芽を見つけることに貢献できるかもしれません。今後は「予報」だけでなく、新人発掘や楽曲制作にも適用して「ヒットを創る」技術として進化させていくことを目指します。

NeuroAI
「脳科学×AI」の融合研究から生まれた、映像や音声といったコンテンツを視聴した際の脳活動を推定するテクノロジー。NTTデータが登録商標を保有する。主にテレビCMといった広告の分野では既に活用されており、クリエイティブ評価や改善に生かされている。音楽業界でも様々な活用法が期待されており、新人発掘やCMタイアップソングの選定、アーティストの国内外のプロモーション戦略等の支援を目指し、実用化に向けて取り組んでいる。

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スズキの視点

楽曲ヒットの分析にAIを活用することは、私がレコード会社在籍時に「消費者インサイト」のチームをやっていたので、非常に興味深かったです。そのチームでは各国のオーディエンスに楽曲を聴かせ、その反応をユーザー層ごとに分析することで“ヒットするか否か”などを予測していました。「NeuroAI」のアプローチは、人の音楽の感じ方自体をシミュレートしているので、例えば今のヒットの大きな要素である“口コミしたくなる”なども分かると、ROI(投資利益率)も見えてくるでしょう。

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鈴木貴歩
ParadeAll代表取締役。“エンターテック”というビジョンを掲げ、エンタテインメントとテクノロジーの幸せな結びつきを加速させる、エンターテック・アクセラレーター。エンタテインメントやテクノロジー領域のコンサルティング、メディア運営、カンファレンス主催、海外展開支援などを行っている。

(構成 中桐基善)

[日経エンタテインメント! 2021年1月号の記事を再構成]

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