バニラアイスに「隠し味」をプラス

アイデアを公募した「雪見だいくふう」の成果はキャンペーンの盛り上がりにとどまらなかった。20年に実施した、メイン商品のリニューアルにもつながったのだ。「雪見だいふく」の「本家」ともいえる看板フレーバーのバニラ味を見直したのは、約8年ぶりのことだ。

「だいくふう」に寄せられたアイデアの中に、「塩味の食材を加えると、バニラアイスのコクが引き立ち、よりおいしい」という提案があった。この着想をヒントに研究を加え、「ほんのわずかな隠し塩を足すことによって、バニラアイスのコクを一新する効果を引き出せた」(安藤氏)。

隠し味を加えたリニューアルの際には「バニラのコク」と書き添えた

長年のファンが多いだけに、「主力フレーバーを大がかりに見直すのは、違和感を与えてしまう心配がある」と、安藤氏はロングセラーゆえの悩ましさを語る。手を加える余地が小さいと思われてきたバニラだったが、消費者のアイデアを突破口に「隠し味」という改良ポイントを見いだせた。

味わいの改良と並んで、ロングセラー商品に求められるのは、世代を超えて支持されるような、ファン層の継承だ。ロングセラーの菓子がファン層を引き継ぐことができず、姿を消すケースは珍しくない。

近年の事例だけでも、スナック菓子の「カール」やチョコ菓子「ポポロン」「森永チョコフレーク」「ポルテ」など、割と知名度の高かった商品が販売縮小や生産中止の憂き目にあっている。「ロングセラーだからこそ、古くさいと思われるリスクをはらむ。若い世代へのアプローチが欠かせない」と、安藤氏は気を引き締める。

対人コミュニケーションのきっかけとして「雪見だいふく」を位置づけるようなキャンペーンも用意した。2個入りタイプを食べていると、残りの1個を分けてほしいとねだられる場面を想定して、「1個ちょーだい」と求められた際に、あげるか、あげないかを問う「#それ1個ちょーだいあげる派あげない派総選挙」キャンペーンをツイッター上で実施。話題を集めた。

「フレーバーや食べ方の紹介だけではなく、食べる場面や得られる気持ちなどまで視野に入れた『付き合い方』を提案していきたい」と、安藤氏は「共感の時代」にふさわしいマーケティングを思い描く。「総選挙」への投票は10万件を超え、SNSを通じた接点づくりに役立った。「様々な切り口のマーケティングが消費者とのタッチポイントを広げる」(安藤氏)

上手に1個を分けてもらえるテクニックを紹介した「マスター術」

ロッテが巧みなのは、ファンと一緒に面白がるようなスタンスをとっているところだ。たとえば、「1個ちょーだい」キャンペーンでは投票結果に基づいて、「最ももらえやすいタイミングは午後1時54分」とか、「最も許せる相手は母(63.8%)で、兄・姉(46.0%)は最もあげたくない相手」などとまじめに分析。上手にもらえるテクニックを集めた「マスター術」まで発表した。

レシピ紹介も単なる話題づくりではない。「雪見トースト」のような新レシピは「親子で一緒に作る楽しみがある」と、安藤氏は世代間の広がりに期待する。ロッテの公式サイト内では「手づくりレシピ」と銘打って、クレープ包みやおはぎなど、様々なアレンジ法を案内。「お子様だけでは行わず、必ず近くに保護者のいる時に調理してください」と書き添えている。

新たなファンを求めて、海外にも乗り出している。既に米国やカナダ、東南アジア、オセアニアなどに輸出。売れ行きも好調に推移しているという。各地での受け止め方は「日本から来た物珍しいアイス」として受け止められている」(安藤氏)。

欧米には「mochi(モチ)」の通称で知られる、似たような見た目の氷菓がある。ただ、カラフルな見栄えやむき出しの売り方などは別物。安藤氏は「冷やしてもやわらかさが失われない、日本のもちならではの食感を売り込んでいきたい」と、特許技術を持つ「本家」の自負をのぞかせる。

絶えざる新フレーバーの開発と、SNSを活用したマーケティング展開の両輪で、長寿商品をさらに深掘りする取り組みが続く。だが、最も大切にしたいのは「こたつやお風呂といったくつろぎのシチュエーションで、安らぎを感じてもらえるような、発売当初からの世界観」(安藤氏)だ。気持ちがささくれ立つような状況が続く中、見た目も食感も心をなごませてくれる「雪見だいふく」は、ハートに寄り添うアイスという特別な存在になり得ているようだ。

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