巨大企業に改革を迫る 「アクティビスト」の戦い方『アクティビスト』

資本主義のヒーローか、欲望に煽られる現代社会の体現者か
資本主義のヒーローか、欲望に煽られる現代社会の体現者か

企業のガバナンス(統治)改革の流れのなかで、「物言う株主」と呼ばれるアクティビストの存在感が増している。今回紹介する『アクティビスト』(染田屋茂訳)は、大企業との間で繰り広げてきた「戦い」や「駆け引き」をつぶさに追いかけることで彼らの素顔に迫る経済ノンフィクションだ。ビジネスシーンでの緊迫した攻防を通じて、次世代リーダーを目指す読者に「企業は誰のものか」を考える材料を提供してくれる。

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著者のオーウェン・ウォーカー氏は米国、英国およびヨーロッパでビジネスと投資関連の問題を取材してきた、受賞歴のあるジャーナリストです。フィナンシャル・タイムズ紙のロンドン特別報道班で編集者として働いています。それ以前はフィナンシャル・タイムズの米国の企業経営幹部向け専門出版社で編集長を務めていました。

企業価値の向上を目指す

野村証券のウエブサイトにある証券用語解説集では、アクティビストを次のように説明しています。「英語表記はActivist。株式を一定程度取得した上で、その保有株式を裏づけとして、投資先企業の経営陣に積極的に提言をおこない、企業価値の向上を目指す投資家のことをアクティビストという。いわゆる『物言う株主』で、経営陣との対話・交渉のほか、株主提案権の行使、会社提案議案の否決に向けた委任状勧誘等をおこなうことがある。ただし、最近では株式の保有割合が低くても、投資先企業に積極的に提言をおこなうケースもみられる」

本書はアクティビストが関わることによって企業経営に大きな影響を与えた8つのケースを取り上げて詳しくリポートしています。その中には、マイクロソフト、ヤフー、デュポンなど国際的に知名度の高い企業も入っています。ジャーナリストである著者は、数多くの関係者への取材、匿名のインタビュー、公開文書や取材で知り得たデータ、資料などを駆使して、何が起こったのかを再現していきます。濃密なルポを通して、21世紀の「物言う株主」の実像に一歩近づくことができます。

アクティビスト投資家(物言う株主)は、世評を大きく二分する存在である。ある者に言わせれば、彼らは資本主義の究極のヒーローであり、業績の悪い企業を懲らしめ、世の企業と取締役会に株主の利益を最優先して経営するように仕向ける、アダム・スミスの愛弟子とも言える人々だという。逆に彼らを、目先しか見ず、欲望に煽られる現代社会をまさに体現した人々だと評する者もいる。手っ取り早く稼いで次の獲物に移る前に、人員と研究開発費を削減して、十分機能している企業から貴重な資産を剥ぎ取っていくだけの存在というわけだ。
(第1章 アクティビスト投資家とは何者か? 14ページ)

日本では、2000年以降に本格的に活動を始めた村上ファンドが知られています。元通商産業省官僚の村上世彰氏が立ち上げた組織で、株の買い占めやM&Aを積極的に仕掛ける一方、株主に対してさまざまな提案をすることで話題になりました。2006年には村上氏がインサイダー取引の疑いで逮捕され、有罪判決を受けています。

その後、リーマン・ショックを経て、2012年にはじまった第2次安倍内閣での「アベノミクス」をきっかけに、海外のアクティビストが日本に目を向けるようになりました。日本企業の生産性が欧米に比べて低いのは、株式の持ち合いや内部留保の積み上げ、不透明なコーポレートガバナンス(企業統治)などが理由だという認識が広がったためです。企業の改革を進めるための施策も相次いで導入されました。それ以降、ファナック、ソニー、任天堂、京セラなど名だたる日本のメーカーに対して、海外のアクティビストがモーションをかけていることが明らかになっています。一連の動きについては第11章の「アクティビストの行進」で触れています。企業統治のあり方を考えなければならない日本のビジネスパーソンにとって学ぶべき内容が詰まっているのです。

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