法政大学キャリアデザイン学部教授、プロティアン・キャリア協会代表理事、UC.Berkeley 元客員研究員。専門はキャリア論、組織論。著書は「プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術」(日経BP)など25冊。このほか、民間企業23社の取締役や社外顧問を歴任

企業の生き残り戦略は、個人にとってはチャンス

白河 これまで副業や兼業に慎重だった会社さえも、コロナの影響で踏み切らざるを得なくなっています。この機会に乗らない手はないということですね。電通やタニタは、社員の個人事業主化を進めています。

田中 企業の生き残り戦略は、個人にとってはキャリア開発のチャンス。「こんなはずではなかった」と不平不満を言っている場合ではなく、その施策を自分のキャリア資本をためるチャンスとして変えるしたたかさを持つべきだと思います。今は非常に重要なターニングポイントを迎えている時期なのです。

白河 仕事に限らず勉強することのモチベーションをどう維持するかも問題かもしれません。私は昨年まで経営学修士(MBA)を取得するために社会人大学院に通っていたのですが、一緒に学んでいた会社員の方が「せっかく努力してMBAを取っても、会社の評価にまったく反映されない」と嘆いていて……。

田中 キャリア資本をためようとするときには、外的評価を求めようとしないほうがいいです。今おっしゃったように評価の仕組みが追いついていないからです。重要なのは、自分自身の内的評価を積み上げていく意識を持つこと。それに、MBA取得が社内では評価されなくても、一歩外に出るだけで「あの会社にいながら、MBAまで取った人」という評価になる。どんどん外に向けて発信したらいいと思います。キーワードは「キャリアのオープン化」です。それに、もし「残業もせずにMBAを取りにいくなんて」というようなハラスメントをよしとする会社であれば見切りをつけるべきです。個人を尊重するキャリア形成ができる環境とはとても思えません。

白河 たしかにそうですね。直属の上司は評価してくれなくても、さらに上長に話せば理解を示してくれる可能性もあります。実は経営層の中には「プロティアン・キャリア」に賛成する人は多いし、社員にそうあってほしいと願っていると思います。この連載に出ていただいた積水ハウスの仲井嘉浩社長も「男性育休を促進したのは、男性社員の意識を変えて自律的に動ける組織にしたかったから」とおっしゃっていました。

田中 素晴らしいですね。男性にとっても育休はキャリア資本をためるビッグチャンスです。狭い専門領域だけで昇進して収入を上げていくモデルは過去の神話だと思ったほうがいい。

白河 過去にはそれが可能でしたが、今は会社も「そこまで社員の人生を保証できなくなりました」と表明し始めていることを理解しないといけないですね。

田中 個人もより積極的に自分なりの稼ぎ方を考えていくべき時代です。学生たちには「稼ぐことは悪いことではない」という話をよくしているんです。稼げるということは、つまり社会に貢献できる機会を増やしていること。お金だけが目的になるのはよくありませんが、自分の力を発揮できる社会的役割を広げられるチャンスを前向きに探すことが、将来の経済的安定にも直結するはずです。何より、「できることが増える」という成長は人間の本能的な喜びではないですか。組織の中で我慢することが喜びではない。根本的な転換が2021年は加速すると思います。

白河 オンラインで気軽に学べるサービスが充実してきたことも追い風ですね。実は私もプログラミング講座はやってみたいと思っているところなんです。アプリを作るというより、考え方を知りたくて。

田中 いいですね。いくつになっても学びは始められるし、果敢に挑戦する人はすてきです。最初は趣味的なきっかけでもいい。ガーデニング、将棋、なんでもいいから、主体的に自分で選び取った何かにチャレンジしてみることから始まるのだと思います。もっと言えば、趣味と仕事の境界も曖昧になります。リモートワークが当たり前になれば、公私はさらに不可分になっていきますし、社会全体の理解も進むでしょう。女性にとっては働きやすい時代になると思います。

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企業は個人のキャリア設計をどう支援すべきか