日本経済、コロナ前への回復いつ? 生産性向上が急務
2021年の日本経済はどんな姿になるのでしょうか。民間シンクタンクの間では、「経済活動の回復は緩やかにならざるを得ない」(みずほ総合研究所)との慎重な見方が広がっています。
最大の問題は、収束の兆しが見えない新型コロナウイルスの感染状況です。ワクチン普及への期待は高まっているものの、先行きは不透明です。政府はまず、首都圏を対象に2度目となる緊急事態宣言を出し、その後、対象地域を広げてきましたが、外出自粛や飲食店の営業時間の短縮要請といった行動制限は企業や個人の行動を大きく左右します。対面型のサービスを提供する外食、旅行、娯楽産業は引き続き厳しい状況です。
東京五輪・パラリンピックを今夏に予定通り開催できるかどうかも焦点です。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の嶋中雄二参与・景気循環研究所長は、仮に中止になると3.6兆円程度の損失が発生し、21年の実質国内総生産(GDP)を0.7%程度押し下げると試算します。開催に伴う投資総額約10兆円のうち残る1兆円、観光客らによる消費約2兆円、国や東京都による大会経費への支出(未執行分約0.6兆円)が見込めなくなるためです。
嶋中氏は今年の景気を占う上でのポイントとして、緊急事態宣言の実際の解除時期、ワクチンによるコロナ収束の効果、マネーストック(通貨供給量)急増の影響、好調な中国経済の行方、バイデン米新政権の経済政策を挙げます。
先行きを読みづらい要素が多く、予測は難しいですが、日本経済が「コロナ前」に戻るのはいつでしょうか。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長は、実質GDPの水準が、消費税引き上げ前の直前のピーク(19年7~9月期)に戻るのは、24年度の半ば頃になると予測しています。回復力の弱さに加え、「コロナ禍のもとで企業の倒産が増え、家計の所得が減った結果、経済の基盤が毀損した」とみているためです。
嶋中氏は、コロナ前の水準まで戻るのは23年7~9月期頃と推測します。
日本以外の主要国の経済をみると、コロナの感染者が多い欧米は日本よりも足元の落ち込み幅は大きいですが、問題は経済の「回復力」です。設備や労働力を最大限に活用した場合の成長率である潜在成長率を比べると、欧米は日本より高い水準です。欧米の経済は22年には19年の水準を回復するとみるシンクタンクが多いのです。主要国の中で最も回復が遅れる可能性が高い日本にとって、生産性の向上による潜在成長率の回復が急務といえます。
斎藤太郎・ニッセイ基礎研究所経済調査部長「21年1~3月期は再びマイナスも」
コロナ禍のもとで低迷している日本経済は、いつ立ち直れるのでしょうか。これまでの日本経済の損失と、今後の見通しをニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長に聞きました。
――2020年7~9月期の日本の国内総生産(GDP)は物価変動の影響を除いた実質で前期比5.3%、年率換算で22.9%のプラス成長となりました。
「内外の経済活動の再開に伴い、大幅なプラス成長となりましたが、20年4~6月期の落ち込みの6割弱を取り戻したにすぎません。直近のピークである19年7~9月期と比べると20年7~9月期の実質GDPはマイナス5.7%の水準にとどまっています」
「19年10~12月期の実質GDPの水準を基準に、20年1~3月期から同7~9月期までのかいり幅を累計するとマイナス3.3%。中国のマイナス1.6%よりマイナス幅が大きかったものの、米国(マイナス3.7%)やユーロ圏(マイナス5.8%)より小幅にとどまっています。さらに、コロナ前の平常時の成長率トレンドを加味して同様な試算をすると、日本の累計損失はマイナス3.4%。中国(マイナス3.7%)、米国(マイナス4.5%)、ユーロ圏(マイナス6.3%)より経済損失の比重が小さかったのです。ただ、日本の平常時の成長率が低いから打撃が小さかったといえるので、手放しでは喜べません」
――東京五輪が日本経済に与える影響は。
「開催に備えるための建設需要などはすでに消化されており、開催しても、開催しなくても経済への影響は大きくないとみています。期間中に海外からの訪問客が増えたとしても経済効果は限られます」
――コロナウイルスのワクチン接種が一部の国では進んでいます。
「金融市場ではワクチンに対する期待が非常に大きいですが、あまり過大に期待しないほうがよいと思っています。ワクチンを接種すると一定の割合で副反応が発生します。日本は欧米に比べてコロナの罹患(りかん)率や死亡率が低いので、ワクチンのベネフィットに対し、副反応が発生するリスクのほうが高くなる可能性があります」
――今後の成長率の見通しは。
「実質GDP成長率は20年度がマイナス5.6%、21年度は2.6%、22年度は1.5%を見込んでいます。20年10~12月期はプラス成長を見込めますが、緊急事態宣言の再発令の影響で21年1~3月期は再びマイナス成長になる可能性が高いでしょう。緊急事態宣言が解除されたあとも、新しい生活様式が対面型サービス消費を抑制するのに加え、倒産、失業、企業収益の悪化で需要が落ち込むでしょう。需要が落ち込んだ業界ではサービス供給力も低下し、回復が遅れる要因となります」
(編集委員 前田裕之)
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