改正は会社員にメリット大 iDeCoで老後資金づくり
いまさら聞けない大人のマネーレッスン
老後の資金づくりといえば「個人型確定拠出年金(iDeCo=イデコ)」。
iDeCoは、国民年金や厚生年金に上乗せする形で、自分で運用する年金制度です。積み立てたお金は60歳まで引き出せませんが、掛け金が全額所得控除、運用益が非課税、受取時には控除あり……といったメリットがあります。
退職後、公的年金だけで生活するのは、難しいことも多いものです。
老後の資金を準備する際、まずはiDeCoを活用しましょう。定期預金に預けるよりも、有利に資金を準備できるはずです。
iDeCo改正で使い勝手が向上
iDeCoがスタートしたのは2001年。現在に至るまで、何度か改正が行われてきました。加入対象者の拡大、掛け金の年単位化……など、その使い勝手は向上しています。加入者も増加傾向にあり、20年11月末時点で約178万人に達しました。
少し先のことではありますが、22年度以降も改正が行われる予定です。
上の図の通り、主に会社員として働く人にメリットが多い改正が続きます。くわしくみてみましょう。
22年5月の改正で加入できる年齢が5年間延長へ
まずは、22年5月に実施される改正です。
21年現在、iDeCoの加入対象年齢は20歳~60歳未満ですが、22年5月に行われる改正で、20歳~65歳未満と、加入できる期間が5年間延長されます。
加入可能年齢が延長されるということは、それだけ積み立てられる掛け金も増えるということですね。先述しましたが、掛け金は所得控除の対象ですので、税制上の優遇措置もより多く受けられます。
ただ、残念ながら、誰でも65歳まで加入できるというわけではありません。
というのも、iDeCoへの加入条件の一つに「国民年金への加入」があるからです。
定年後再雇用や定年延長などで、60歳以降も会社員として働く場合、厚生年金に加入していれば、国民年金にも加入していることになります。
よって、会社員として働いている間(厚生年金に加入している間)は、60歳を過ぎても、引き続きiDeCoへ加入できるようになります(すでに加入している場合は継続することができます)。
一方、フリーランスや自営業者、会社員・公務員に扶養されている配偶者などは、原則、60歳以降に国民年金に加入することができません。つまり、22年5月の改正後も、60歳以降にiDeCoに加入することはできない、ということになります。
ただし、未加入期間があって国民年金保険料を満額納めていない(40年加入していない)場合は、60歳以降も国民年金に「任意加入」できます。国民年金に任意加入していれば、その間はiDeCoに加入することができます。
22年4月に受取開始時期も延長される
また、加入可能年齢の拡大にあわせて、iDeCoの「受給開始時期」も見直されます。
現状では、60歳から70歳の間に受け取りを開始しなくてはなりませんが、22年4月以降は、開始時期の上限年齢が75歳に引き上げられます。60歳以降(22年5月以降は65歳以降)は掛け金を納められませんが、「運用指図者」として資産の運用は続けることができます。
iDeCoの運用益は非課税ですので(一般の口座では20.315%の税金がかかります)、運用を継続したい人にとってはメリットがあります。
22年5月以前に60歳になる人は加入者としてiDeCoを続けたいなら、60歳になっても受け取りを開始せずにいったん運用指図者として運用を続け、22年5月以降に再び掛け金を出せる加入者に戻る手続きをすればいいでしょう。
22年10月に企業型DC+iDeCo 加入の要件緩和
つづいて、22年10月に行われる改正をみてみましょう。
22年10月の改正では、「企業型DC」の加入者も、原則としてiDeCoに加入できるようになります。
「企業型DC」ときいても、ピンとこない人もいるかもしれません。
企業型DCの正式名称は「企業型確定拠出年金」。いわゆる退職金制度の一つとして、企業が資金を拠出し、従業員が運用するしくみです。企業型DCを導入しているかは、それぞれの企業によって異なります。
ちなみに、iDeCoの正式名称は「個人型確定拠出年金」で、自分で資金を拠出し、運用するしくみです。
上の図の通り、現状の制度でも、どの会社員もiDeCoに加入できる可能性があります。
ただ、企業型DCを導入している会社では、その規約によって、iDeCoに加入できないケースがあります(企業型DCの規約を変更して、掛け金の上限を下げる必要があります)。
22年10月の改正では、上記の要件が撤廃され、企業型DCの規約を変更しなくとも、事業主掛け金が拠出限度額に満たない場合は、iDeCoに加入して掛け金を拠出できるようになります。
たとえば、企業型DCのみに加入している人は、事業主の掛け金が月額5万5000円の拠出限度額に満たない場合、「2万円以内、かつ、事業主の掛け金とiDeCoに拠出する掛け金の合計が月額5万5000円を超えない範囲」で、iDeCoに掛け金を拠出ができるようになります。
確定給付企業年金(DB)など、企業型DC以外にも加入している人は、事業主の掛け金が月額2万7500円の拠出限度額に満たない場合に、「1万2000円以内、かつ、事業主の掛け金とiDeCoに拠出する掛け金の合計が月額2万7500円を超えない範囲」で、iDeCoに掛け金を拠出ができるようになります。
企業型DCやDBは、それぞれの企業が独自に行っているため、一覧にすると複雑に見えるかもしれません。
まずは、勤め先の退職金制度をチェックしてください。そして、勤め先が企業型DCやDBを導入している場合は、その掛け金がいくらなのかを確認しましょう。掛け金が、拠出限度額に満たない場合は、iDeCoに加入することができます(※)。
(※)企業型DCには、事業者だけでなく、加入者自身も掛け金を拠出する「マッチング拠出」という制度があります。このマッチング拠出とiDeCoは併用できません。
マッチング拠出が可能な企業型DCの加入者は、マッチング拠出か、iDeCoへの加入か、いずれかを選ぶことになります。自分で運用したい場合は、iDeCoを選ぶとよいでしょう。
23年以降も続く改正
最後に、23年以降の改正も簡単にみておきましょう。
改正の具体的な時期は未定ですが、DBに加入している人の掛け金の算出方法が見直されます。
iDeCoと企業型DC、DBを合わせた掛け金の上限額は5万5000円に設定されていますが、DBの掛け金は一律2万7500円とみなされており、iDeCo・DCの上限も2万7500円とされています。
仮に、企業が拠出するDBの掛け金が2万7500円より少なくても(企業や個人ごとに異なります)、iDeCoやDCの上限額は2万7500円のまま。積み立てられる金額が少なくなってしまうケースが問題になっていました。
そこで、DBの掛け金を一律で扱うのではなく、実際に拠出される掛け金を基に算出し、5万5000円からDBの掛け金を引いた額をDCの上限額とする改正が行われます。
たとえば、DBの掛け金が月1万円だった場合、改正によって、DCの上限額は月4万5000円に拡大します。
資産運用もiDeCoから
いかがでしょうか。今までiDeCoを活用しきれていない会社員も、今後の改正によって、フル活用できる可能性があります。
この数年間で、資産運用に注目が集まっていますが、iDeCoでも投資信託などを購入し、運用することが可能です。
何度か述べましたが、iDeCo内での運用益は非課税で、受取時にも控除があります。積み立てたお金は60歳まで引き出せないことに留意しつつ、長期的な資産運用を考えている人は、まずはiDeCoを利用することをおすすめします。
ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士。講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門にし、解説している。社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員。確定拠出年金の運用に関する専門委員会委員。経済エッセイストとして活動。近著に「一般論はもういいので、私の老後のお金『答え』をください! 」(日経BP)、「残念な介護 楽になる介護」(日経プレミアシリーズ)、「100歳までお金に苦労しない定年夫婦になる!」(集英社)、「届け出だけでもらえるお金」(プレジデント社)、「受給額が増える!書き込み式得する年金ドリル」(宝島社)など。
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