「虎に翼」で深み増す米津玄師 世界への扉開くか音楽プロデューサー蔦谷好位置氏に聞く(下)

日経エンタテインメント!

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Billboard JAPAN調べ。対象期間は2019年12月30日~2020年11月8日。各項目の表記は、SL=セールス(CD、DL=ダウンロード)、LU=ルックアップ。数字は順位
1976年5月19日生まれ、北海道出身。音楽プロデューサー・作曲家。2020年10月配信のback number最新シングル『エメラルド』(ドラマ『危険なビーナス』主題歌)にプロデューサーとして参加。11月にリリースされたアプリゲーム『A.I.M.$ ―All you need Is Money』では音楽監修を務めている

音楽プロデューサー蔦谷好位置に、2020年の音楽界でさらなる飛躍を遂げた人気アーティストたちをサウンド面を中心に解説してもらった。前回「音楽ランキング ヒゲダン強し、感じるバンドのロマン」に引き続き、今回は、欧米でヒットする可能性があるアーティストについて聞いた。

J-POPで世界的成功を収めるのは誰か。現代音楽家の坂東祐大と出会ったことで音楽的に深みを増した米津玄師が、もっとも近いのではないかと蔦谷氏は見ている。

「個人的には、世界への扉を開くのは米津玄師ではないかと。アルバム『STRAY SHEEP』は、この時代にCDを約150万枚を売り上げた。宇多田ヒカルさんの『First Love』に匹敵する快挙で、もはや米津玄師そのものが現象ですが、本人は非常に冷静に客観視しているように感じます。アーティストとして、世界に生きる1人の人間として、次に何をすべきかを常に見据えているんです。

(北野)武さんや宮崎駿さんが映画で世界的に評価されましたが、米津は絵もマンガも描けるので、音楽といろんな融合が可能。何をやるか分かりませんが、英語で歌わずとも海を越えて大スターになる可能性があると思っています」

20歳で限界に気づいた米津

米津玄師 ボカロPとして活躍した後、2012年にソロデビュー。「恐らく彼は“現象”になってしまっている自分の存在を誰よりも客観視しているはず。なので、我々を驚かせるような、さらなる飛躍が近い将来に見られるのではないかと期待しています」

「音楽的にもどんどん吸収していますね。米津のように何でもできると、全部自分で作りたくなるものですが、彼は1人で作る限界を20歳くらいで気づいた。それから僕と一緒にやったり、映像を人に委ねたり、ダンスやボイストレーナーについてインプットしてきました。

そして、ここにきて坂東祐大に出会った。坂東君は現代音楽家としてアートの側にいる人だけど、ポップスにおいてもその実力を発揮できる当代の天才の1人です。『感電』などを手掛けていますが、僕が驚いたのは『海の幽霊』のオーケストラアレンジ。近年のポップスでは群を抜いていますね。米津は僕に、坂東君に出会えたことを「『イジェル・ゴッドリッジ(レディオヘッドを世界的バンドに導いたプロデューサー)に出会った』と話してくれたことがあります。互いに必要な能力を持った者同士が出会ったのだから、虎に翼ですよ。

藤井風 2020年1月デビューのシンガーソングライター。「以前から、ピアノカバー動画を上げる彼のYouTubeチャンネルを好きで見ていました。メロディーセンス、歌詞、歌唱、すべてが卓越していて、非常に大きなスケール感と、温かさや優しさを感じます」

プロデューサーとアーティストの新しい組み合わせでいうと、10月に武道館ライブを行ったシンガーソングライターの藤井風もそう。YouTube時代からカバー曲のピアノアレンジの再構築には目を見張るものがありましたが、iriなども手掛ける新進気鋭のプロデューサーのYaffleと組んだことで、表現の幅が大きく広がったんだと思います。

Yaffleとは一度一緒に仕事をしましたが、非常に優秀なプロデューサーです。藤井風は、今後確実に飛躍すること間違いなしなので、大きな予算をかけてフルオーケストラやジャズのビッグバンド、教会で歌うといった音楽表現の幅をYaffleとなら一緒に広げていけるでしょう。双方の経験値が上がれば、米津と坂東君のような強力タッグになれると思います」

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(ライター 橘川有子)

[日経エンタテインメント! 2021年1月号の記事を再構成]