ゴリラが新型コロナに感染 米動物園、大型類人猿で初
米農務省は、2021年1月11日午後、カリフォルニア州のサンディエゴ動物園サファリパークのニシローランドゴリラ3頭が、新型コロナウイルスに感染したと発表した。大型類人猿の感染が確認されたのはこれが初めてだ。
サンディエゴ動物園サファリパークの事務局長リサ・ピーターソン氏によれば、ゴリラたちは8頭の群れで暮らしており、感染した3頭は回復する見込みという。このまま群れで飼育し、健康状態のチェックを続けるという判断が下された。
「これから感染する個体もいれば、感染しない個体もいるでしょう」と、ピーターソン氏は前置きしたうえで、「彼らは1頭のシルバーバック(成熟したオス)が率いる群れで暮らしています。そのシルバーバックがリーダーです。彼が1日中群れを導き、全員が彼を頼りにしています。彼らのためにも、この暮らしを続けさせてあげるのが1番だと思います」と説明した。
ゴリラはトラ、ライオン、ミンク、ユキヒョウ、イヌ、ネコに続き、新型コロナウイルスへの自然感染が確認された7番目の動物だ。オランダとデンマークではミンクから人への感染が確認されているが、残りの種から人に感染するという証拠はない。
ピーターソン氏によれば、20年4月に感染が確認された米ブロンクス動物園のライオンやトラと同様、3頭のゴリラは無症状の職員から感染したと推測される。サンディエゴ動物園では、毎日問診票で職員の健康状態をチェックする、動物と直接触れ合う職員は全身防護服を着用するなど、厳格な感染予防策を講じているとピーターソン氏は説明する。
21年1月6日に、感染した3頭のうち2頭がせき込み始めたため、動物園の職員はゴリラたちの便を採取し、カリフォルニア動物衛生・食品安全研究所に送った。検査の結果、研究所と米農務省の国立獣医学研究所が11日に感染を確認した。
動物園は3頭の名前を公表していないが、11日時点では、3頭ともに症状を示していた。「3頭とも少し元気がありませんが、水分と食事はしっかり取っています」とピーターソン氏は話している。
絶滅危惧種のニシローランドゴリラに関しては、以前から、ほかのいくつかの希少な類人猿とともに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスであるSARS-CoV-2に特に感染しやすいと予測する研究結果が発表されていた。米カリフォルニア大学デービス校の著名な教授で、生態学と進化学を専門とするハリス・ルイン氏は20年11月、「絶滅の危機にある霊長類の間でCOVID-19のような病気が流行する可能性は、飼育下と野生の両方で非常に高いと言えます」と述べている。
ゴリラの野生での生息数は5000頭以下だ。家族で群れを形成するため、1頭でも感染すると瞬く間に感染が広がり、ただでさえ不安定な個体群を危険にさらす恐れがある。
米動物園水族館協会(AZA)の会長兼CEOダン・アッシュ氏は、ナショナル ジオグラフィックのメール取材に対し、感染したゴリラは「心配」だが、サンディエゴ動物園の職員はあらゆる予防策を講じているという「完全な確信」を持っている、と述べた。
米国ではこれまでにブロンクス動物園、サンディエゴ動物園、ルイビル動物園で動物の感染が確認されている。いずれもAZAの認可を受けた動物園で、動物たちの健康を守るため、厳格な手順に従っているとアッシュ氏は説明する。認可されていない動物園のなかには、専門知識やプロ意識に欠けているところも多く、検査を受けていない動物たちがどれくらい感染しているかさえわからない。
サンディエゴ動物園のピーターソン氏は、感染が確認されたゴリラたちの観察を続け、その教訓を野生の個体群の保護に役立てたいと話している。
(文 NATASHA DALY、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年1月14日付]
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