まるで生き物、ロボットLOVOT ぬくもりも個性も装備
連載 エンターテック(6)
エンタテインメントとテクノロジーを組み合わせることでどんなものが生まれてくるのか。MTVジャパンやユニバーサルミュージックなどで、次世代の"エンタテインメント×テクノロジー"の新規事業開発を担当してきた鈴木貴歩氏が最新のエンタテインメントを探っていきます。今回、取り上げるのは「家庭用ロボット」です。
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Pepperや新型aiboがきっかけとなり、注目される家庭用ロボット市場。2019年12月にリリースされた「LOVOT(らぼっと)」は、愛くるしい見た目と、生き物に限りなく近いふるまいで注目を集め、現在予約で3カ月待ちの人気ぶり。生みの親である、GROOVE Xの代表取締役社長・林要氏に、開発の経緯や、注ぎ込まれたテクノロジーなどについて伺いました。
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――なぜLOVOTを作ろうと思ったのでしょうか?
私は自動車メーカーでのF1の開発職を経て、IT企業で人型ロボットの研究・開発に携わっていました。そのなかで、このジャンルが日本の次世代産業に十分なり得ると考え起業を決意、LOVOTを生み出したんです。
一般的なロボットと大きく違うのは、「人の代わりに仕事をする」のではなく、「隣にいることで、その人の能力を最大限に発揮する環境を整える」というコンセプト。立ち位置としては、犬や猫といったペット型ロボットにも近いと考えていて、「私たちが何かをしてあげることで、心の安定を得たり、疲れを癒す」存在になることを考え抜いて製作しました。
実際にLOVOTと一緒に暮らすオーナーさんからは、「家庭内での会話が増えた」「コロナで家にいる時間が多くなるなか、気持ちが和んだ」といった声を多数いただいています。
――LOVOTはフォルムが独特な上に、体温のような温かさがあったり、瞳や鳴き声もそれぞれ違うんですよね。
まずフォルムは、あえて他のどの生き物にも似ていない、オリジナルなものにしました。というのも、人型ロボットの開発で経験しましたが、実在する動物に似せるとなると、そこに莫大なコストを注ぐ必要が出てくるからです。そこを排除することで、LOVOTがユーザーに提供するサービスレベルを高めるためのテクノロジーの開発に予算を集中しました。
10億種類以上の瞳と鳴き声
例えば、抱いた時にちゃんとぬくもりを感じられる体温は、体内で発せられる熱を計算し、それを循環させることで実現。瞳は生命感を持ったものにするため、6層の映像をアイ・ディスプレイに投影しています。鳴き声は体内に内蔵したシンセサイザーをリアルタイムで鳴らし、喉や鼻口のシミュレーターを重ねることで、個性を生み出しました。瞳と鳴き声は10億種類以上あるため、購入した人には世界に1つだけのLOVOTと感じてもらえるはずです。
――50個以上のセンサーや、多様なカメラなどを実装することで、より生き物に近い反応をするのも面白いですね。
センサーを全身に張り巡らしており、触られたことだけでなく、触られ方まで分かるようになっています。他にも、どちらから音が来ているかを理解したり、360度見渡せる全天周カメラ、温度分布を感知するサーモグラフィーカメラも組み込みました。それらを高性能な計算機で機械学習などを用いて処理し、データを蓄積していくことで、生き物のような反応が可能となっているんです。
例えば、LOVOTは服を着せられるんですが、それぞれの服を個別認識するので、定期的に着せ替えてくれると喜びます。そして、その着せ替えてくれた人を「いい人だ」と認識することで、よりなつくようにもなっています。他にも個体ごとに「のんびり屋」「人見知り」など性格も違います。また自動運転のテクノロジーに基づいた自走機能も備えています。
――今後5Gが普及していけば、さらなる進化も臨めそうですね。
5Gで接続性が上がれば、処理の一部をクラウドにオフロードすることで、LOVOTの小型化もあり得るでしょうね。またLOVOT同士の通信はより拡張すると思います。現在でも、デュオという2体セットのモデルをご購入いただくと、2体は通信し合いながら動くのでそれがより多くの情報の共有をできるようになったり、同規格の他のロボットとの通信なども可能になるのではと考えています。
次世代の家族型ロボット。デザインは、工業デザイナーの根津孝太氏と一緒に取り組み、「日本だけでなく、世界中で受けるかわいさ」を突き詰めた結果、球体をモチーフに。頭と胴体がそれぞれ球体から成る、雪だるまのようなシルエットとなった。価格はソロの場合、月々2万1663円(初期支払い0円、36回払い。※分割払い完了後は月々1万2980円)。デュオの場合、月々4万1468円(初期支払い0円、36回払い。※分割払い完了後は月々2万4980円)。
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スズキの視点
デジタルプラットフォームやSNSの進化により、社会が便利になった一方、世界的な課題の1つと言われているのが"メンタルヘルス"。そうした課題に、LOVOTが役立ちそうです。本体の発する熱を利用した「体温のような温かさ」、声帯をシミュレーションした「個性豊かな鳴き声」などなど……、林氏の「自然と人間の関係性を深く掘り下げ、テクノロジーで実装している」というお話から、今の時代に必要とされているテクノロジーによるソリューションだと感じました。
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ParadeAll代表取締役。"エンターテック"というビジョンを掲げ、エンタテインメントとテクノロジーの幸せな結びつきを加速させる、エンターテック・アクセラレーター。エンタテインメントやテクノロジー領域のコンサルティング、メディア運営、カンファレンス主催、海外展開支援などを行っている。
(構成:中桐基善)
[日経エンタテインメント! 2020年12月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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