コロナで「住まいを見直したい」 専門家にヒント聞く
新型コロナウイルス流行で私たちの働き方は変わり、テレワークが急速に広がりました。それに伴い、住まいの見直しを進めている人が多いことが日経ウーマノミクス・プロジェクトの調査でわかりました。オンライン会議ができる仕事部屋が欲しい、テレワークを生かして移住したい――。けれど、引っ越しやリフォームはお金も労力もかかりますし、そもそも自分にはどんな住まいがピッタリなのか、疑問や悩みの声もたくさん寄せられています。感染拡大に歯止めがかからないなかニューノーマル(新常態)の模索は続きます。新しい働き方と暮らし方を組み立てるヒントを住まいの専門家に聞きました。
ウマノミ会員「見直したい」「すでに対策」7割
日経ウーマノミクス・プロジェクトの調査は2020年12月にインターネットを通じて実施し、全国630人のウーマノミクス会員や読者から回答がありました。「コロナ流行による働き方の変化などを受け、あなたの住まいで見直したいところはありますか」という質問に対し、68%が「見直したい」もしくは「すでに対策を進めている」と回答。週の半分以上テレワークで働いている人に限ると83%が住まいの見直しを考えています。
見直しの内容は部屋の模様替え(38%)やリフォーム(4%)、近場の引っ越し(8%)、移住(7%)などさまざま。見逃せないのは、見直しを考える人のうち2番目に多かった「考えているが、決まったことはない」という層(28%)。自由回答を見ると、「他の人の改善策を知りたい」(60代、女性)、「まだわからない」(30代、女性)という声が上がっています。テレワークが定着しつつある一方、自宅での業務に不便を感じつつも、なかなかこれという解を見つけられていない人も多いようです。
「なりたい自分」から出発する
ウマノミ調査で多かった「見直したいけれど、どうするか決まっていない人」。より快適な自分らしい働き方、暮らし方に近づく最初のステップはどうしたらよいのでしょうか。リクルート住まいカンパニー(東京・港)の池本洋一SUUMO(スーモ)編集長がすすめるのは、SNS(交流サイト)でフォローしている人や親しい友人がどんな暮らし方をしているかを知ること。憧れがある人、価値観が合う人をヒントに、「理想の暮らし、なりたい自分、次にチャレンジしたいことは何かを考える。それを実現するのが引っ越しやリフォーム。何のために、という目的を自分なりに見つけるのが大切」といいます。
池本編集長が住まいの取材をしていて最近特徴的だと感じるのは、自分がかなえたい暮らしを実現するために地方からの遠隔勤務や副業といった試みを会社に働きかける人が多いことだそうです。「コロナ禍で住む場所や働く場所、時間の使い方の裁量が広がるなか、『このほうが仕事のパフォーマンスもいいし、プライベートも充実して新たな活躍の場ができそうだ』とワクワクした人たちが、成果を落とさないようにしながら新たな働き方を認めてもらったケースがたくさんある」。大手企業からベンチャー、契約・派遣社員といったさまざまな働き方でそうした動きが出ており、チャレンジしてみてはと池本編集長は呼び掛けます。
とはいっても転居や大がかりなリフォームは手間も金銭面でもハードルが高いもの。「1Kに住んでおり、テレワークでどのように公私を分けるか、工夫を知りたい」(40代、女性)といった声も多くありました。現在の住まい、とりわけ部屋数が限られる1LDKやワンルーム住まいでは、できることも限られてしまうのでしょうか。
積水ハウス住生活研究所の河崎由美子所長にアドバイスを求めると、「フレキシブルに自分の居場所を作ってみて」と教えてくれました。「ベッドやテレビ、キッチンなど生活感のあるものが目に入ると仕事のスイッチが入りにくい。部屋の隅々まで歩いてみてベストの場所を見つける」。ワンルームならキッチン寄りにベッド、ベッドが見えないように真横にテーブルを置いてみる、本棚をついたてのように立てて空間を区切るなど、「机はこう、イスはこっちという既成概念から離れる」ことを河崎所長はすすめます。同研究所の服部正子さんは「子どもが近づいてくるのが見えるだけで集中力が下がるという研究もあるが、様子が見えていたほうが安心して集中できる人もいる。いろいろ試してみて」。
部屋の使い道を多重化するのもおすすめです。例えば「子ども部屋」と固定するのではなく、昼間は在宅勤務用、夕方からは子どもの勉強部屋というようにタイムシェアで使う。今冬は受験生を個室、ほかの家族はもう一つの個室を家具やカーテンで仕切って寝室とする、など時期によって柔軟に部屋の用途を組み替えることもできます。「イスが一つあれば自分の空間をつくれる。秋は外の紅葉が見える窓の近く、夏は空が目に入る低いイス、など家の中でいちばん好きな場所を見つけておく」(河崎所長)。いくつも部屋がなくても、工夫一つで見慣れた家が様々な表情を見せてくれそうです。
本格的な移住の検討拡大
SUUMOの池本編集長も気分転換できる場所があれば間取りのマイナスを補えると話します。近所の喫茶店に出かけてみたり、家の中でも時間を決めて運動してみたり、空間的、時間的に切り替えることで仕事への集中力を高められるようです。
一方でテレワークが拡大すれば通勤の利便性を考える必要がなくなり、思い切って住み替えをするチャンスなのは間違いありません。「週の半分が在宅勤務になり、『コロナ後』も在宅制度が導入されることを見越して職場から少し離れた実家近くへの引っ越しを希望している」(40代、男性)、「パートナーと都内から伊豆半島に転居した。テレワークのため伊豆で生活しつつ、必要に応じてパートナーが所有する東京のマンションに泊まることも」(30代、女性)などの声がウマノミの調査で寄せられています。
ふるさと回帰支援センター(東京・千代田)によると、センターに寄せられる移住相談のうち、20年度は本格的に検討しているケースが主となる電話やメール、面談の件数の割合が拡大。茨城や栃木、群馬、山梨などの東京近郊の県への20年6~12月の相談件数は、前年同期比でおおむね1.5倍に増加しています。SUUMOのウェブサイトの物件ページでも、コロナの影響が広がる前後で比べて都心から100 キロ圏内の郊外の閲覧数が伸びているそうです。
「08年にはセンター利用者全体の7割が50代以上。19年は反対に40代以下が7割を占めるようになった。新たな仕事や、子育ての環境の良さを求めて地方都市への移住を検討する若い世代が増えていたなかで、テレワークの浸透や『3密』の回避など感染対策の視点からこの傾向がさらに強まった」と同センターの高橋公理事長は言います。
生活環境が丸ごと変わる移住については、きちんとなじめるのか、どんな準備が必要なのか不安や疑問が山積みです。まずはインターネットや雑誌などの特集で情報を集めるのが第一歩。ふるさと回帰支援センターではウェブサイトで各自治体の相談員からのアドバイスや、実際の移住体験者のインタビュー、セミナーの開催情報などを掲載しています。「ここだ」という町が見つかったら、相談員に個別相談。さらに詳しい情報収集や現地訪問、宿泊体験などを経て自分にぴったりの移住先を探していくことになります。
同センターは移住者の受け入れ先となる会員自治体の拡大に取り組んでいます。「受け入れ先が増え、それだけ移住希望者の選択肢が増えれば、自分に合う場所が見つかる可能性が広がる」(高橋理事長)。「私らしい暮らし」は、どんなカタチか。21年は自分のベストな働き方、暮らし方に向けて一歩踏み出す年にしたいですね。
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