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プラセボ効果で、痛みだけでなく検査値も改善したという報告も

ノセボ効果はプラセボ効果に比べ、一般にはほとんど知られてはいませんが、ノセボ効果に関する研究も進んでいます。

例えば、英国で行われたある臨床試験[注3]では、脂質異常症の治療に用いられるスタチンという薬剤の使用を開始して2週間以内に、副作用によって治療を中止せざるを得なくなった患者を登録し、ランダムな順番で、スタチンを1カ月服用する期間、プラセボを1カ月服用する期間、1カ月間治療なしの期間に割り付けて、有害事象の強さを比較しました。スタチンとプラセボは、見た目では区別できない状態(盲検状態)になっていました。

その結果、治療なしの期間に比べ、スタチンの服用期間とプラセボの服用期間には有害事象の報告が有意に多いこと、また、スタチン服用期間とプラセボ服用期間を比べると、有害事象の出現リスクに差はないことがわかりました。ノセボ効果と考えられるこの結果を主治医が患者に伝えたところ、試験終了から6カ月の時点で、半数の患者がスタチンの服用を再開できていたそうです。

続いて、プラセボ効果について報告している論文[注4]を1本紹介します。こちらは、関節リウマチの患者を対象とする5件の臨床試験でプラセボに割り付けられた患者のデータを集めて分析したところ、プラセボ使用中の患者に炎症の軽減が見られた、という報告です。

米国の研究者たちは、プラセボ群だった788人の患者を対象に、プラセボ投与開始時点から12週後まで、または24週後までの痛みの程度と、炎症のマーカーであるCRP(C反応性タンパク質)値、および赤血球沈降速度の変化を調べました。その結果、12週後、24週後の両方で、治療開始前に比べ、患者が訴える痛みの強さも、CRP値も、赤血球沈降速度も、すべて有意に改善していたことが明らかになりました。

実際に投与されていたのはプラセボだったにもかかわらず、効果を期待する気持ちが、関節リウマチによる炎症をも抑制したことになります。

[注3]Wood FA, et al. N Engl J Med. 2020; 383:2182-2184. Published online November 26, 2020. https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMc2031173

[注4]Vollert J, et al. JAMA Netw Open. 2020;3(9):e2013196. Published Online September 16, 2020. https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2770651

プラセボ効果もノセボ効果も患者自身の予測が大きく関係

では、プラセボ効果とノセボ効果を経験しやすいのはどのような人なのでしょうか。米国の研究者たちが、このテーマに関係する論文を検討した研究[注5]によると、プラセボ効果は、その薬が効くことを期待する患者の気持ちに、ノセボ効果は副作用や副反応を心配する患者の気持ちに由来する、とのことです。

これまでに行われた研究では、鎮痛薬や精神障害に対する治療薬の場合は、プラセボ群にも治療群と同じ程度の効果(プラセボ効果)が見られやすいこと、同時に、治療群と同じ有害事象を経験(ノセボ効果)するプラセボ群の患者も少なくないことが示されていました。

著者らによると、プラセボ効果とノセボ効果には、患者自身の予測が関係します。予測は、自分が以前に経験した薬の効果や害、医師からの説明(何の薬か、どんな効果または害が起こりうるか)、自分以外の患者に関する情報(同じ薬を使用した人が経験した効果や害について見聞きする、あるいはインターネットを通じて知る情報)に基づいて行われます。

著者らは、ノセボ効果について、「気にかかる情報、間違った思い込み、悲観的な予測、好ましくない過去の経験、流布される否定的なメッセージなどが、有害事象の増加に関係し、さらには治療効果を減じる可能性がある」と述べています。

2021年の2月下旬には、日本でも新型コロナウイルスに対するワクチンの接種が開始される見込みとなってきました。海外からの有害事象の報告を聞いて不安になり、接種を受けるかどうかを決めかねている人もいるかもしれません。そうした不安があると、たとえプラセボを接種されても体調が変化し、疲労感や頭痛、筋肉痛、下痢などをする可能性がある、つまり、ワクチンの接種後に生じる有害事象には本人の心の持ちようも大きく影響する、ということを念頭に置いて、リラックスして接種に臨めば、結果は違ってくるかもしれません。

米国や英国でのワクチンの承認は、「それらのワクチンを接種することによって得られる利益は、発生しうるリスクに優る」という判断に基づいて下されています。世界各地でワクチン接種が広がって、日常生活のなかでワクチンの感染予防効果が報告される日が待たれます。

[注5]Colloca L, et al. N Engl J Med. 2020;382:554-561. Published Online February 6, 2020. https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMra1907805

[日経Gooday2021年1月8日付記事を再構成]

大西淳子
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。

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