悪者扱いされがちだったコーヒーがなぜ注目されるように?

コーヒーはかつて発がんリスクが疑われるなど“悪者扱い”されがちだった。逆にその健康効果が注目されるようになったのは、ようやく今世紀に入ってからのことだ。2002年にオランダの学者が、コーヒーの摂取が(生活習慣病の)2型糖尿病になるリスクを低下させる、という内容の論文を英医学誌「ランセット」に発表したのを機に、様々な疾病に関するコーヒーの疫学研究が活発になった。

「人種や国、文化の違いによらず、コーヒーを飲むことで3大死因病(心臓病、脳卒中、呼吸器疾患)などの罹患(りかん)リスクが下がることを指摘する論文がこれまでにも数多く発表されており、4、5年前までにはその多くで根拠が認められています」

健康との関連においてよく取り上げられるコーヒーの有効成分が、植物の色素や苦みの成分であるポリフェノールの1つで、抗酸化作用が認められているクロロゲン酸だ。

「体の中の過剰な活性酸素は細胞自体を痛め、老化を引き起こします。例えば血管の壁が老化すると動脈瘤(りゅう)などが起きやすくなり、糖尿病が重なれば粥状(じゅくじょう)動脈硬化が起こって血行を阻害し、心臓や脳の働きに悪影響を与えます。クロロゲン酸はこうした過剰な活性酸素の無力化に貢献し、細胞の老化、炎症を抑えます」

クロロゲン酸にはインスリンの分泌を促すなど2型糖尿病の予防効果も指摘されている。ただ、コーヒー豆を深く煎ると、このクロロゲン酸は失われてしまう。そこで岡さんは、ニコチン酸が豊富に含まれる深煎りの豆と、クロロゲン酸が豊富に含まれる浅煎りの豆をブレンドしたコーヒーを飲むことを勧めている。

岡さんは第一線を退いた後も最新の「ネイチャー」など科学誌や学術論文にこまめに目を通し、情報発信にも積極的だ

コーヒーの健康効果については、がんの予防も気になるところだ。岡さんによると、様々な臓器のがん全体で見れば、コーヒーは発がんリスクをわずかに下げる程度だという。ただ、そうした中で肝臓がんに関してはリスク低下の効果が「ほぼ確実」とされている。予防効果の指摘は今世紀に入ってから目立ち始め、2005年には国立がん研究センターが「コーヒーをほとんど飲まない人に比べ、ほぼ毎日飲む人の肝臓がんの発生リスクは半減する」という研究結果を発表 した。

「肝臓はとても複雑な臓器です。抗酸化物質であるクロロゲン酸をはじめ、コーヒーに含まれる様々な成分を総動員することで、がんの発症が抑えられると考えられます」

岡さんは「コーヒーは本当に不思議な飲み物なんですね」としみじみ語る。

「例えば漢方薬の原料となる生薬の成分はだいたい1つか2つ。でもコーヒーにはいくつもの有効成分があります。そのうえ習慣性があるので、嫌いな人や体質に合わない人を除けば、無理なく毎日飲める。そこが魅力です」

もちろん、何事も「過剰」は禁物。飲み過ぎは避けたほうがいいし、砂糖も入れすぎは良くない。適量は1日に3、4杯だ。また妊婦はカフェイン入りのコーヒーを控えたほうがいい、という指摘もある。

いずれにせよコーヒーと健康に関する研究は多角化しつつあり、深化の途上でもある。今後も様々な疾病の予防効果だけでなく、アンチエイジング、美容といった側面からも、新たな研究成果が注目を集めることになるだろう。

(名出晃)

岡希太郎さん
東京薬科大学名誉教授、コーヒー研究家。1941年、東京都生まれ。東京薬科大学卒業。東京大学薬学博士。スタンフォード大学医学部留学。コーヒーの薬理作用について研究。
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