エチオピア岩窟、ギリシャ山の上 求道者が隠れた場所謎に満ちた世界の秘密都市

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

アイルランド・ケリー州の沖合に浮かぶスケリッグ・マイケル島(PHOTOGRAPH BY ANDREAS JUERGENSMEIER)

秘境の宗教都市、旧ソ連の軍事都市、米軍の秘密基地、巨大な核シェルター、極北の地下倉庫……。書籍『ビジュアルストーリー 世界の秘密都市』(日経ナショナル ジオグラフィック刊)から、地図には載らない世界の秘密都市を美しい写真とともに紹介しよう。今回は、求道者たちが隠れ住んだ場所だ。

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人は社会的な動物だ。にもかかわらず、信仰心に突き動かされ修行に励もうとする者たちは、何千年という昔から、ただ真理を追究するために、一人で、あるいは他の修行者たちと共同で、日常の世界を離れて生きるという道を選んできた。

スケリッグ・マイケル島のハチの巣小屋

ゴツゴツとした岩の孤島に、石を積み上げただけの小屋。映画『スター・ウォーズ』のファンなら見覚えがあるのではないだろうか。主人公のルークが過去から逃れ、隠遁(いんとん)生活を送っていた島だ。

実際にはスケリッグ・マイケル島といい、石の小屋は修道士たちによって6世紀に建てられたとみられている。修道士たちがアイルランド南西沖に浮かぶこの島を選んだのは、神に近づくためだ。その頃すでに、アイルランドは、世界的に見てもかなりキリスト教化された地域だったが、修道士たちは世俗を忘れるため、さらに強い孤独を求めて岩だらけのこの島へとやってきた。

スコットランド西側にあるアイオナ島や、ノーサンブリア王国(7~10世紀)の沖合に浮かぶリンディスファーン島など、イギリスやアイルランド沿岸の島々を拠点にした修道士の共同体は多い。中でもスケリッグ・マイケル島の修道院は荒れる大西洋を見下ろす高さ約180メートルの崖の上にあり、ひときわ神がかった印象を受ける。自己を滅し禁欲的な生活を送るのにうってつけの環境だ。一度でも人が定住したことのある土地で、これほど人を寄せ付けようとしない場所もめずらしい。

修道士たちは崖の途中に営巣する海鳥のごとく、身を寄せ合って暮らしていた。小屋を6つ建て、小さなコミュニティーを作り、共同生活を送りながらも、救いを追求するために孤独であることを基本としていた。彼らの心の目はアウグスチヌスのいう『神の国』、つまり自己の内面へと向けられていた。

バヒタウィの暮らす岩穴

エチオピア北部のラリベラは、11の岩窟教会で有名な聖地だ。中には7世紀頃のものとみられる古い教会もある。堆積岩をくりぬくようにしてつくられ、見つけにくいよう、わざと風景に溶け込ませているようにもみえる。

エチオピアでキリスト教が始まったのは、「荒野の教父」たちの時代。荒野の教父とは、原始教会の制度やローマ帝国とのつながりを嫌い、エジプトの砂漠へと入っていった、聖アントニウスをはじめとする禁欲主義の隠遁者たちのことだ。エジプト北部のワディナトルーンは、そのような隠遁者たちが暮らした町の一つで、何十とあった修道院のうちのいくつかが今も残っている。

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ギリシャ北部、山の上の修道院
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