激しい運動で唾液中のSIgAが低下。回復に時間がかかることも

一方、激しい運動は、免疫にマイナスに働く。若い男性10人が、ランニングマシンで45分間、高強度(最大酸素摂取量の80%)で走ったときと、中強度(最大酸素摂取量の50%)で歩いたときで比べたところ、高強度運動では終了1時間後に、免疫指標の一つであるT細胞の活性が低下していたという研究がある[2]

また、唾液中のSIgAが低下すると上気道感染症にかかりやすくなり、疲労感が強くなることも分かっている(グラフ)。

強い運動をするとすぐにSIgAは低下するという。「アスリートは2時間ほどの高強度運動なら運動終了後2時間以内くらいで回復するが、マラソンのように強い運動を長い時間続けると、SIgAが元に戻るのに1日程度かかることもある。運動習慣のない人はさらに回復に時間がかかり、1時間ほどの高強度運動でも回復に1日を要する」(清水さん)。

38人のエリートアメリカズカップヨットレース選手(平均年齢36歳)の50週間のトレーニング期間中、毎週、唾液を採取。最初の30週間は主観的疲労感を自己評価する質問も行った。期間内にアスリート1人あたり平均2.7回、上気道感染症を発症。上気道感染症を発症する3週間前からSIgA濃度が減少し、発症から2週間後に元に戻ることが確認された。また、疲労感が高い者ほどSIgA濃度が低かった。(データ:Med Sci Sports Exerc. 2008 Jul;40(7):1228-36. )

このように、高強度の運動で免疫が低下し、上気道感染症の感染リスクが高まるのはなぜか。「一つは、激しい運動によって交感神経の働きが強まること。もう一つは、マラソンなどの持久系スポーツでは酸素を多く取り込むが、これによって体内で生じる活性酸素の影響。これが免疫細胞の機能低下を招いたり、そのDNAを損傷したりすると考えられる」(清水さん)。

自律神経には、交感神経と副交感神経の2種類があり、交感神経は体を活発に動かすときに働き、副交感神経は体を休めるときに働く。2つは交互にバランスをとりながら体の機能を調節するが、過度な運動は交感神経を過剰に働かせて免疫バランスを崩す。粘膜のバリア機能を支えるSIgAの分泌も低下し、上気道感染症のリスクが高まる。

「アスリート指導の現場では、唾液中のSIgAを測定し、これを目安としながら運動の持続時間を調整したり、本番前に免疫機能を回復する手法を試行錯誤したりしている」(清水さん)。

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免疫機能を低下させる要因と自分でできる対策