社会関係資本を貯める方法は新たな出会いをつくることだという

異なる属性の人とのネットワークをつくる

白河 キャリアを資本でとらえるという考え方には膝を打ちました。ご著書によると、キャリア資本を構成するには「ビジネス資本」「社会関係資本」「経済資本」の3つが必要で、それぞれを棚卸しし、バランスよく補強していく行動が大事だと。例えば、田中先生にとってのビジネス資本の補強とはどんな行動になるのでしょうか。

(編集部注)3つの資本
(1)ビジネス資本──スキル、語学、プログラミング、資格、学歴、職歴などの資本
(2)社会関係資本──職場、友人、地域などでの持続的なネットワークによる資本
(3)経済資本──金銭、資産、財産、株式、不動産などの経済的な資本

田中 僕の場合は、米国留学から戻って大学で職を得たときに研究者として本を執筆する実績をビジネス資本としてためていこうと決めました。毎年1冊は本を出すことを自分に課し、守り続けているんです。実績が着実にたまることで、心理的な安心や納得感になり、新たな挑戦ができます。同時に、外へとネットワークを積極的に広げて、社会関係資本も築いています。大学関係者との付き合いは最小限にして、できるだけ外へ外へ。なぜなら同質性の高い関係性の中に閉じこもっているだけでは社会関係資本はたまらないからです。イキイキと活躍している人の共通点は、異なる属性の人たちとのネットワークを積極的につくっていること。ビジネス資本と社会関係資本を掛け合わせていくと、いつの間にか経済資本に転換される。そんなイメージです。

白河 つまり、「稼げる力」へと発展していく。

田中 そうです。年収を上げる方法の一つとしてまず浮かぶのが「転職」かもしれませんが、それは一時的な選択に過ぎません。大事なのは、ビジネス資本と社会関係資本をためる行動を重ねていくこと。その結果、必ず経済的なリターンはある。「必ず」と言い切っていいです。では、それぞれをどうやってためるのか。ビジネス資本は、自分の仕事の価値をとがらせていくことでたまっていく。差別化といってもいいですね。人とは違うちょっとした価値を磨いていく。得意なことを複数掛け合わせるだけで、十分に差別化は可能です。社会関係資本をためる方法は、ソーシャルネットワークも活用して、どんどん新たな出会いをつくることです。本業だけでは得られない気づきや学びを得られる場を見つけていくイメージで。

白河 社会関係資本を磨く時間には、家庭や地域との関わりも含まれますか。

田中 もちろんです。

白河 それはうれしい回答ですね。一般的にキャリア論は仕事の軸だけで語られることが多いのですが、プロティアンはライフも含めて全部の経験をキャリア資本に取り込めるとなっている。女性は勇気づけられますし、あるいは「これまで社会関係資本をちゃんとためてこなかったな」と反省した男性たちも、例えば子育てを通じて地域との関係を築くこともキャリア資本の増強につながる。コロナ禍ではすでにさまざまな変化が生まれているようにも思います。

田中 一つの組織に自分の可能性を閉じ込めない意識がとても重要です。副業推進の流れも追い風になっています。他社で副業しなくても「社内副業・兼業」もいいですね。一つの会社でも部署によってカルチャーは多様ですから、他部署のプロジェクトで公募があれば積極的に手を挙げてみる。大阪支社に在籍しながら、オンラインで本社部門の会議に出席するとか。こういった経験ができれば、組織における自分の役割や貢献の仕方もよりクリアに見えてきます。「社員にキャリアオーナーシップを持たせると、離職してしまうのでは」というのも杞憂(きゆう)です。むしろ逆の現象が起きるはずですよ。もちろん、一部の流動はあるかもしれませんが、それは必然であり、だからといって何も手を打たないのはミドルシニア層の危機をますます深刻化させるだけです。

以下、来週公開の後編に続く。後編ではシニアのキャリア資本の生かし方、キャリア開発における個人と企業の役割などを伺います。

プロティアン・キャリア診断
白河桃子
昭和女子大学客員教授、相模女子大学大学院特任教授。東京生まれ、慶応義塾大学文学部卒業。商社、証券会社勤務などを経て2000年ごろから執筆生活に入る。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員、内閣府男女局「男女共同参画会議専門調査会」専門委員などを務める。著書に「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)、「ハラスメントの境界線」(中公新書ラクレ)など。

(文:宮本恵理子、写真:吉村永)