厚い金星の雲の謎
この光が雷だったとすれば、一体何が雷を引き起こしているのだろうか。この問いの答えを探す天文学者たちは、今回の発見は金星の空に関する知見に変革をもたらすかもしれないと考えている。
硫酸でできた金星の雲は太陽系でも独特であり、従来の雷生成モデルは当てはまらないとアプリン氏は言う。問題の一つは、金星の雲が比較的よく電気を伝えると考えられていることだ。これにより、電気が1カ所に蓄積できない可能性がある。
地球では、雲の中で暖かい空気が上に、冷たい空気が下に移動する対流の際に、電荷を帯びた氷の結晶やあられが上層と下層に分かれ、電気的な偏りが生じる。しかし金星の雲の中では、同様の現象がどの程度起こるかは明らかではないと、米ノースカロライナ州立大学の惑星科学者ポール・バーン氏は言う。また、あかつきは光があった場所の高度を測定できないため、たとえそれが雷だったとしても、高層大気とその何十キロも下にある雲の層のどこで発生したのかはわからない。
一つの可能性は、金星の雷は火山噴火の後に生成されるというものだ。厚い雲のためか噴火はまだ直接観測されたことがないが、状況証拠によって多くの惑星科学者が噴火は起こっていると確信している。噴火によって電気を帯びた上昇プルーム(噴煙)が生まれ、雷を生成している可能性があるという。
惑星科学者は金星に雷が存在するかどうかを知るため、今回検出されたものが本当に雷であるかどうかにかかわらず、これからも光を探し続けるだろう。
「雷はカリスマ的なプロセスです。アクティブだからです」とアイゼンバーグ氏は語る。「金星において、生物の材料となる化学物質を生み出す動力源の一つかもしれません」。つまり、雷のエネルギーによって、生命誕生に必要となる分子がつなぎ合わされる可能性があるということだ。もし、水があり、温かく、太陽光が当たる場所でこのプロセスが起きていれば、光合成微生物が生存できる環境があるかもしれない。
また、金星で最近検出されたとされるホスフィン(リン化水素)のガスは、雷が生んでいる可能性もある。ホスフィンは、地球上では微生物によって生成される化合物だ。ただし一部の専門家は、本当にホスフィンかどうか疑問視している。このガスが実際に金星雲に存在するとすれば、その一部は雷と大気の相互作用によって生成されている可能性がある。
地上の望遠鏡とあかつきによる二重の証拠があれば、雷があったことを関係者全体に納得させられるだろうとカリー氏は言う。対して、人類が金星に新たな探査機を送り込み、厚い雲の中に潜り込むか雲の頂上付近を飛行するまでは、雷の有無については議論の余地が残るとバーン氏は述べる。
地球とほぼ同じ大きさと組成でありながら劇的に異なる進化をたどった金星については、驚くほど知らないことが多い。今回検出された光は、「もう一度、金星探索に行く必要があるという論拠になります」とアイゼンバーグ氏は語った。
(文 ROBIN GEORGE ANDREW、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年1月5日付]