配信だけの新作ミュージカルに込めた夢(井上芳雄)第85回

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。政府による緊急事態宣言が再び出されて、演劇界でも先行きが不透明な状況が続いています。一刻も早い収束を願いつつ、僕は初めての試みとして、1月17日にオリジナル配信ミュージカル『箱の中のオルゲル』に挑みます。ゼロから自分たちで物語や世界観を創り上げた新作を、配信だけでお届けします。

井上芳雄 by MYSELF Presents オリジナル配信ミュージカル『箱の中のオルゲル』。1月17日19時より配信のみ。公演後には出演者によるアフタートークも。一次販売視聴券は1月24日まで、二次販売視聴券は1月25~31日まで視聴可能

まずは年末年始の話から。みなさんはどんなふうに過ごされましたか。僕は例年よりも長く休みをとれました。予定していた帰省はできず、ずっと東京にいて、家族とゆっくり過ごしました。ただ休みの間にも、いろんなカンパニーで感染者が出たという話が入ってきたりして、どこか心が落ち着かない毎日でしたね。

僕自身のことで言えば、一番うれしかったのは10年以上ぶりくらいに牡蠣(かき)を食べたことでしょうか。以前、あたって苦しんだことがあって、それ以来、食べるのを控えていたのです。公演の稽古や本番に差し障りがあるといけないから。でも、今年は休みが長いから、あたったとしても他の人に迷惑がかからないだろうと思って、決死の覚悟で食べました(笑)。あぶって火を入れて。信じられないくらいおいしかったですね、こんなに豊かな味だったのかと。そのくらい久しぶりだったし、それだけ長い間、本番をずっと抱えていたんだという感慨とともにじっくり味わいました。

大晦日には、『ダウンタウンのガキの使いやあらヘんで! 絶対に笑ってはいけない大貧民GoToラスベガス24時!』(日本テレビ系)を見ました。オープニングで、神田沙也加さんと一緒に登場して、ミュージカルの舞台そのままの感じで『マンマ・ミーア!』の替え歌を歌いました。ネタバレ厳禁なので誰にもお知らせできなくて、知らずに見て驚いた人も多かったみたいです。いろんな人から連絡がきて、いつにない反響の大きさに、この年末は家にいる人が多いのだろうなと実感しました。

撮影したのは11月。ミュージカル『プロデューサーズ』の公演の最中です。昼公演と夜公演の間に、楽屋で歌や振りを覚えて、リハーサルが1日あって、本番は早朝から。10時ぐらいに終わり、そのまま急いで劇場に入って、昼公演に出るというハードなスケジュールでした。屋外の芝生の上で歌い踊ったのですが、何が難しかったかというと位置取り。僕と沙也加さん、ダンサーの方たちが立つ位置に目印はあったのですが、芝生なので行ってみたら全部が緑……。どこに立てばいいのかが難しかったですね。でも、だいたいうまくいったんじゃないかな。視聴者の方に、ミュージカルはこんな人がこういう感じでやっているんだ、と知ってもらえるだけでも貴重な機会だと思い、一生懸命歌い踊りました。

衣装も本格的で、ダンサーもいて、ドローンを飛ばして空からも撮ったりと、大がかりな撮影でした。沙也加さんも、吉本興業の藤原寛さんも入念に準備や練習をされていたし、僕もそう。6時間に及ぶ番組のいろんなパートで、これほどの労力をかけてつくっていると思うと、すごいことです。普段僕たちはお茶の間で楽しく見ているだけですけど、大晦日の看板番組とあって、つくる側の気合いは大変なものでした。映像のバラエティーでも舞台のミュージカルでも、ものをつくる現場の熱気は一緒ですね。

物語のある長い1曲のようなミュージカルに

さて、そのミュージカルですが、1月17日に初めての試みとして、オリジナル配信ミュージカルに挑戦します。『箱の中のオルゲル』という新作です。出演は僕と咲妃みゆさん。作曲・ピアノは大貫祐一郎さん、作・演出・作詞は安倍康律君です。僕のラジオ番組『井上芳雄 by MYSELF』(TBSラジオ)から生まれた企画で、たまたま緊急事態宣言が再び出たタイミングでの開催になりましたが、動き始めたのは昨年の夏くらい。自粛が明けたころ、ラジオのリスナーの方やミュージカル好きのお客さまが楽しめる、ミニミュージカルのようなものを創れたらいいね、と僕が何気なしに言ったことが、実際に進んでいって形になりました。最初は1人ミュージカルのつもりだったのですが、咲妃さんをゲストにお迎えして、スタジオにセットを組んで、衣装も着てと大がかりになって、とてもミニとはいえなくなりました。時間は1時間を予定、曲は全部で8曲あります。

物語や世界観は、ミュージカル俳優仲間の安倍君と一緒に創りました。彼は「ぼるぼっちょ」という劇団を主宰していて、僕のラジオ番組発のコンサートでは構成をしてくれています。僕が最初言ったのは、ひとつのシチュエーションで物語のある長い1曲のようなミュージカルにしたいねと。それに応えて、安倍君がストーリーやキャラクターを生み出してくれました。ネタバレにならない範囲で言うと、オルゴールの話です。オルゲルは、どこかの国の言葉でオルゴールのことだそうです。時が移り変わっていくなかで、オルゲルが出会った人たちや、見てきた光景を音楽にのせて奏でます。

次のページ
すぐ隣で起こっている話と感じてもらえるように