ただ、一方的に暴力はダメと言われても、AくんとBくんは、腹落ちしないと思います。日本は「心の教育」という道徳教育を重視してきました。しかし、そのお題目を唱えるだけでは、民主主義国家を担う人材は育つとは思えません。

学校は民主主義を支える自律型の人材を育てる場所でなければいけません。もちろん、横浜創英もそうした場所として成長していきたいと考えています。直近の話だと、コロナ禍で海外への修学旅行が中止に追い込まれ、その代替策を高2の生徒約40人が協議しています。500人あまりの高2のうちの希望者で構成していますが、様々な課題について議論し、それを全生徒の合意形成につなげるため、議論のプロセスも随時公開しています。(詳細は前回記事「学校経営は生徒の手で 修学旅行も制服も自分で決める」

横浜創英では個別最適化学習のためのカリキュラムを策定中という工藤校長

教師はティーチャーではなく、コーチャーに

生徒たちは目的や場所、費用のみならず、各地のコロナの感染状況を調べ、「宿泊を伴う旅行は難しいのでは」とか、「そもそも旅行を希望しない人もいる場合は、選択制を導入しよう」など様々な議論をしているようです。全生徒がOKになるには確かに修学旅行の選択制もありでしょう。国の「選択的夫婦別姓制度」の導入は遅々として進みませんが、横浜創英ではそうした選択制が実現できるようになるかもしれません。

大事なことは生徒1人1人が当事者意識を持ち、自分たちで考え、話し合い、利害の対立を自覚し、全員の自由を尊重する方向で妥協点を見つけ出す、そして合意することです。学校運営に関することは、教師が指導するのではなく、生徒たちが主体になって決めることが大事です。教師はティーチャーではなく、コーチャーでいいと私は考えています。一斉型の授業で、教師が一方的に知識を教えるのではなく、生徒が自分にとって最適の学習方法を選択し、学ぶことが効果的です。必要に応じて自由にICT(情報通信技術)を活用してもいいでしょう。

効果的な学習方法は教科ごとに異なります。すでに横浜創英の先生たちはプロジェクトチームを発足しており、21年には個別最適な学習のための各科目のカリキュラムづくりを進め、様々なトライアルをやっていく予定です。自分が主体的に学ぶことで、時間を効率的に使えるようになります。日本の普通の中高は平日6時間制です。しかし、結構ムダな時間が多いのではないでしょうか。それぞれの生徒が効果的に時間を使えば、もっと部活や余暇に割けるでしょう。自分が何をしたいのか、社会に役立つために何をすればいいのか、考えたり、みんなと対話したりする時間も生まれるでしょう。横浜創英から真の民主国家を担える自律型の人材を1人でも多く育てていきたいと思います。

工藤勇一(くどう・ゆういち)
1960年、山形県生まれ。東京理科大学理学部卒。1984年から山形県の公立中学校で教えた後、1989年から東京都の公立中学校で教鞭をとる。東京都教育委員会などを経て、2014年から千代田区立麹町中学校の校長に就任。宿題や定期テスト、学級担任制などを次々廃止するなど独自の改革を推進。2020年4月から現職。
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