新築と中古でこんなに違う マンション購入時の注意点
榊淳司 後悔しない住まい選び(4)
例年、年明けから3月の上旬あたりまでは、新築マンションがよく売れる時期で、業界にとっては書き入れ時です。しかし、2021年はどうでしょうか。緊急事態宣言も発令されたことで、例年よりもやや動きは鈍いように思えます。
20年の後半は中古マンションがよく売れました。テレワークが普及したことで、部屋の数や広さを求めて住宅購入のスケジュールを早めた人が増えたのでしょう。購入した物件が空室の場合、「すぐに引っ越しができる」というのが中古の強みではあります。
「新築」は竣工後1年まで
ところで、マンションを購入する場合、「新築」と「中古」とではどういう違いがあるのでしょうか。初歩的なところから分かりやすく説明してみましょう。
まず、「新築」とは一度も人が住んでいない状態のことです。ただ「竣工して2年たったけれど、まだ売れない」という物件もあります。その場合、正確には「新築未入居」と表現します。文句なしに「新築」と言えるのは竣工後1年までとされています。
「中古」は一度でも人が住んだ物件です。たとえ築6か月でも、その間に人が住んでいれば中古となります。
「躯体のコンクリートは100年もつ」
マンションの寿命には諸説あります。きちんとメンテナンスをしていれば、躯体(くたい)のコンクリートは100年もつと言われています。
しかし、例えば給排水管などは20~25年、エレベーターは17~25年が耐用年数となっています。こういった設備を順次更新していけば、理論的には100年でも住めるのです。
そう考えると、仮に「築10年」の物件でも「あと90年住める(新築時の9割の価値はある)」という考え方もできます。
モデルルームで心躍らせてしまうと……
新築の場合は建物が完成する前から販売を始める場合がほとんどです。最近では「竣工販売」といって、建物が完成してから販売を始めるケースもよく見かけます。モデルルームや販売センターの建設のために予算が確保できない小規模な物件に多いようです。
しかし、100戸以上のマンションならば大抵、敷地の外にモデルルームを設置し、建物が完成する1年~2年前から販売を始めるのが普通です。
新築マンションを購入する場合、まだ建物が完成する前に図面やモデルルーム(バーチャルを含む)を見て、購入の可否を判断することになります。このため、実際の住戸ができあがって内覧してみると、「イメージと違う」ということはよくあります。
モデルルームというのは、様々な家具やファーニチャーを使って普通の生活ではあり得ないようにデコレーションされています。それを見て心を躍らせてしまうと、判断を誤ることにもつながりかねません。
中古の「現況有姿」の契約条件に注意
中古の場合、実際に売り出されている住戸を見てから判断します。その住戸が空室になっている場合もありますが、売り主などがまだ住んでいることも少なくありません。現物を見てから判断するので「イメージと違う」ということは起こりにくいのですが、「現況有姿」という契約条件には留意すべきです。
現況有姿というのは、買い手に対して「このままの状態で引き渡しするので、よく見て確認してくださいね。あとで文句を言われても知りませんよ」ということです。たいていの中古物件は「現況有姿」となっています。
だから、住戸の隅々まで入念にチェックすべきなのです。購入を判断したときにまだ売り主が住んでいれば、空室になった引き渡しの前にチェックすべきです。
例えば「お湯が出ない」とか「建具の取り付けにひずみがある」といったことが分かると、補修後の引き渡しや相応の値引きを求めることができます。
新築の諸費用、物件価格のおおよそ3%
新築と中古では、物件代金のほかにかかる費用も微妙に違います。
新築の場合は「諸費用」といって登記や取得税、住宅ローンの手数料、修繕積立一時金などの費用が発生します。おおよそ、物件価格の3%前後になることが多いようです。
中古の場合、これらの費用のうち新築ならではの修繕積立一時金は発生しません。しかし、仲介業者に払う手数料が発生します。通常なら物件代金の3%+6万円+消費税です。
これは結構、バカになりません。この仲介手数料は新築の場合は発生しません。また、売り主が不動産業者で、そこから直接購入する場合も発生しません。なかには手数料のディスカウントを掲げる仲介業者も存在します。手数料の負担が気になるようであれば、そうした業者を探すのもひとつの選択肢です。
なお、通常は築20年(耐火建造物は築25年)超が経過している中古マンションには住宅ローン控除が使えませんので、注意してください。
新築、竣工時期が迫らないと値引き難しく
ひとつ、見落としがちな違いがあります。
それは、新築の場合は売り主が企業です。それも大手企業かその系列会社である場合が多くなっています。その場合、例えば値引きを要請するにしても販売現場には権限がない場合がほとんどです。
また、建物の竣工時期が迫ってこない限り値引きされることはまずない、というのが業界の一般的な常識です。
しかし、中古の場合は売り主が個人である場合がほとんどです。値引きをしてでも急いで売ってしまいたいのか、希望額で売れるまで時間がかかってもよいのかは、売り主の個人的な事情次第です。売り急いでいる売り主の物件だと、値引き交渉がスムースに進むケースもあります。
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「一生の買い物」といわれる住まいの購入。誰しも失敗はしたくないでしょう。戸建てやマンションの最新情報のほか、販売業者などの事情にも精通する榊淳司氏が、後悔しない住まいの選び方をアドバイスします。
住宅・不動産ジャーナリスト。榊マンション市場研究所を主宰。新築マンションの広告を企画・制作する会社を創業・経営した後、2009年から住宅関係のジャーナリズム活動を開始。最新の著書は「限界のタワーマンション(集英社新書)」。新聞・雑誌、ネットメディアへ執筆する傍らテレビ・ラジオへの出演も多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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