それにしても、なぜ日本人は睡眠不足を繰り返し、ましてや自慢までするのであろうか。確かに、がんや生活習慣病とは症状の深刻度は異なるが、睡眠不足も立派な病気である。慢性的な睡眠不足が生活習慣病や認知症のリスクを高めることはこのコラムでも何度か取り上げてきた。働き方改革の中では、眠ってない、こんなに頑張っているアピールは褒められることも少なくなり、むしろ欧米のように“要領の悪い人”扱いされるようになってきたのはいい傾向だ。
日中の強い眠気に悩んで来院する患者さんの原因の中で、最も多いのがこの睡眠不足症候群である。睡眠時間が確保できない理由を聞くと、長時間勤務や長距離通勤、その他のやむを得ない事情を抱えている人は、実は少数派である。多くは趣味やスマホ、ネットなどで睡眠時間を削っている。
「睡眠時間は固定費です 人は何時間眠ればいいのか」でも解説したが、睡眠時間は私たちの健康を保つ上での「固定費」である。「固定費」とは、家賃や光熱費など生活上削ることが難しい出費のことである。これに対して、交際費、被服費、レジャー費などは「変動費」と呼ばれ、不要不急であれば削ることのできる出費である。
やりたいこと(変動費)を削ってでも睡眠(固定費)をしっかりと確保できるかは、その人の価値観による。でも睡眠不足で体を壊して余計な出費が増えないように注意してもらいたいものだ。
三島和夫
秋田県生まれ。医学博士。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。
秋田県生まれ。医学博士。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[Webナショジオ 2020年10月8日付の記事を再構成]